研究課題/領域番号 |
21H02131
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
塚野 千尋 京都大学, 農学研究科, 准教授 (70524255)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 合成化学 / 有機化学 / 構造活性相関 / 全合成 |
研究実績の概要 |
マツブサ科の植物 Schisandra sp.や Kadsura sp.の実は、伝統的に滋養強壮や疲労回復効果のある機能性食品あるいは果実酒の原料として利用されてきた。これら植物からは、様々なトリテルペノイド天然物が単離・構造決定されている。本研究では、朝鮮五味子Schisandra chinensisやその関連種、あるいは Kadsura lancilimbaなどより単離されたトリテルペノイドpre-schisanartaninやlancilactone Cなどに着目している。これらは、共に抗ウイルス活性を示すことが知られている。具体的には、pre-schisanartaninやlancilactone Cは抗HIV活性を有する一方、細胞毒性が非常に弱く医薬品シード化合物としての価値がある。 2021年度はpre-schisanartaninの全合成を目指す上で、左側フラグメントとなる三環性化合物の大量合成法を[3+2]双極子付加環化を確立した。本結果に関して、国内学会で発表するとともに国際学術誌 (Eur. J. Org. Chem. 2021, 4269) に成果報告した。さらに、独自に確立した全シス置換シクロプロパン構築法を基盤に右側フラグメントの合成法を確立した。また、lancilactone Cについては、三員環開裂を含むドミノ反応を基盤とする合成戦略を確立し、特徴的な7員環トリエン構造の構築に成功した。本合成戦略を駆使して三環性骨格を構築するとともに、第4級炭素を含む連続不斉中心の構築法を確立して、その提唱構造の世界初の合成を達成した(発表準備中)。さらに、合成中間体から得られる化合物について生物活性(細胞毒性)を評価し、その毒性が弱いという知見を得た。 一方、歪んだ三員環の合成法を発展させて、セスキテルペンshagene類の不斉全合成も完成した。本結果についても国内学会や国際学術誌(Angew. Chem. Int. Ed. 2021, 23106)に成果発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在までに、三員環開裂を含むドミノ反応を利用したシクロアルタン骨格の効率的合成戦略の開発に成功している。これをlancilactone Cに適用し、その三環性骨格を構築した。また、連続する第4級炭素を含む立体中心を構築することで、提唱構造の合成に成功している。本合成により、文献に報告されている構造には訂正が必要であることが明らかになった。また、pre-schisanartaninについては、全合成に必要な左側と右側のフラグメント合成法を確立している。左側フラグメントとなる三環性化合物の合成では[3+2]環化付加反応を鍵とする合成経路を確立した。右側フラグメントについては、独自に確立した全シス置換シクロプロパン構築法を基盤とした合成法を確立した。 2021年度の成果で特に重要な点は、lancilactone C の提唱構造の合成と、これにより得られたスペクトルデータの知見である。これは、本研究の遂行上重要で、真の構造を解明するためにも、活性発現に重要な構造因子を抽出するためにも必要な知見である。現在、本知見に基づいて修正構造の提案に至っている。さらに、lancilactone Cの合成中間体から数種類の部分構造を有する構造類縁体の合成も実施した。そして、これら化合物について各種がん細胞を用いて細胞毒性を評価して、細胞毒性を示さないことも確認した。以上の結果より、本研究は当初の計画以上に順調に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1. Pre-schisanartanin の全合成に向けて、左側と右側のフラグメントを連結する方法について検討する。両フラグメントを連結した後、鍵となる八員環骨格を金触媒を用いた環化と閉環メタセシスにより構築する。本収束的合成法が確立できれば、関連したトリテルペノイドarisanlactone Cの合成へも発展可能である。 2. Lancilactone Cの真の構造解明を解明する。すでに合成した提唱構造のスペクトルデータと、報告値のスペクトルデータから修正すべき構造を明らかにしている。確立した合成経路の中間体を利用して、修正構造を合成し、真の構造を明らかにする。 3. Pre-schisanartanin や lancilactone C 等の標的化合物の合成とそれらの生物活性について検討する。さらにこれまでに合成したpre-schisanartaninやlancilactone Cの部分構造を持つ中間体の生物活性評価(細胞毒性・抗HIV活性)も実施する。これらの結果を統合して、活性発現に重要な構造について検討し、抽出する。
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