研究実績の概要 |
本研究では、伝統的に果実酒の原料等に利用されてきた朝鮮五味子Schisandra chinensisなどの植物より単離されたトリテルペノイドpre-schisanartaninやlancilactone Cなどに着目している。これらは、共に幅広い抗ウイルス活性を示す一方、細胞毒性が非常に弱く医薬品シード化合物としての価値がある。 これまでにpre-schisanartaninの左右フラグメントの合成に成功している。また、3員環開裂を含むドミノ反応を利用したシクロアルタン骨格の効率的合成戦略の開発し、lancilactone Cの特徴的な7員環トリエン構造の構築に成功している。そして、提唱構造の全合成の達成、NMRデータと生合成からの修正構造の提案、合成により真のlancilactone Cの解明を実現した。 2023年度は前年度までの上記成果を学会誌に投稿し、掲載に至った(JACS, Synlett)。また、pre-schisanartaninの両フラグメントの連結に成功し、閉環による8員環の構築について検討した。また、これらの合成を活かして、スピロ構造を有する関連化合物の骨格の構築に成功した。本成果は関連化合物の合成を可能性にする重要な成果である。また、3員環開裂を含むドミノ反応を利用したシクロアルタン骨格の効率的合成戦略を発展させて、他の不飽和シクロアルタン骨格への誘導を検討した。本検討によりlancilactone Bについても、文献に報告されている構造には訂正が必要であることを示唆する結果を得た。また、合成した各種誘導体について、抗ウイルス活性と細胞毒性について評価した。特にlancilactone Cの提唱構造は中程度の抗SARS-CoV-2に対する増殖阻害活性を有することを初めて明らかにした。得られた生物活性に関する情報から、多環性トリテルペノイドにおいて活性発現にいくつかの重要な構造を抽出することに成功した。
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