昨年度の麻酔下マウスにおけるin vivo実験から、嗅覚受容体にはアロステリックサイトが存在し、匂い分子に対する結合特異性があることが示唆された。そこで当該年度では、嗅覚受容体の再構成系アッセイを用いてin vitro実験を行った。 報告者は、バニリンに応答することが知られている嗅覚受容体を対象に、アロステリック効果を生じる匂い分子のスクリーニングを行った。その結果、嗅覚受容体が、精油等に含まれるMIEGによって正のアロステリック効果を生じることを発見した。 AlphaFold2によって予測した嗅覚受容体の構造において、分子ドッキングソフトCB-Dock2によるドッキングシミュレーションを行った。その結果、予測した基質結合部位とアロステリック部位に、それぞれの匂い分子が結合することが分かった。アゴニストは、膜貫通部位(TM)3、 TM5、TM6のアミノ酸残基と相互作用しており、特にHis110、Cyc117、Tyr256と水素結合を形成していた。アロステリックエンハンサーは、アゴニストよりも細胞外側に結合しており、TM3、 TM5、TM6だけではなく、細胞外ドメイン(ECM)2、ECM3とも相互作用していた。基質結合部位では、水素結合によってアゴニストが強く相互作用していたのに対し、アロステリック部位では、疎水性結合によってアロステリックエンハンサーが弱く相互作用していた。また結合エネルギーから、アロステリックエンハンサーの結合により、アゴニストの結合がより安定化することが示唆された。
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