研究課題
本研究課題は、これまで見過ごされてきたcircRNAの翻訳機構と翻訳産物の生理的意義を解明することを目的としている。circRNAはその配列が遺伝子座を共有するmRNAと重複することからマッピングの際に判別が困難である。また、circRNAはゲノム上に存在しない接合部位配列を有することから、線状RNAと同様の方法ではマッピングができない。そこで、2021年度はcircRNAを濃縮することとマッピングのための解析パイプラインの構築を行った。ヒト分化多能性幹細胞株 (H9 ES細胞およびWTB6 iPS細胞) を線状RNA特異的に消化するRNase Rで処理した。さらに純度を高めるために、RNase Rで消化しきれないRNAの末端にpoly Aを人工的に付加しオリゴdTビーズを用いて除去した。得られたRNAを用いてライブラリーを作製し、次世代シークエンサーによるデータ取得を行った。得られたデータについて、独自に構築した解析パイプラインを用いて、circRNAのマッピングを実施している。また、細胞内における翻訳状態を定量的に解析する目的で、リボソームプロファイリング法を導入した。本実験系がうまく動いている研究室に出向し、習得した。自身の研究室でも再現よくデータを取得することができるようになったため、現在進行中である。上記の解析により、翻訳されているcircRNAが同定できた場合、次のステップはタンパク質の検出である。共同研究者とともに質量分析の感度を向上させる条件検討を実施し、成果を得た。また、circRNAから翻訳されると考えられるサイズの小さなタンパク質を効率良く検出する目的で、低分子画分の濃縮法についても検討を行い、良好な結果を得た。
2: おおむね順調に進展している
新しい技術もうまく取り入れることができ、順調に研究が進んでいる。
本研究を遂行するために必要な技術を導入することができたため、今後は精力的にデータの取得を進める。circRNAのマッピング結果とリボソームプロファイリングの結果を照らし合わせて、実際に翻訳されているcircRNAの同定を行う。また、翻訳されているcircRNAから生成されるタンパク質の検出が次の課題である。共同研究者の努力の成果で、質量分析の感度が大幅に上昇した。また、circRNAから翻訳されるであろうサイズの小さなタンパク質を濃縮して検出する方法も現在開発中である。これらを用いて、circRNAがコードするタンパク質を同定する。その後は、タンパク質の機能解析を機能欠損実験等により実施する。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件)
Cell Reports Methods
巻: 2 ページ: 100155
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