本研究課題は、これまで見過ごされてきたcircRNAの翻訳機構と翻訳産物の生理的意義を解明することを目的としている。昨年度までに得たヒト分化多能性幹細胞株 (H9 ES細胞およびWTB6 iPS細胞) で共通して発現するcircRNAの解析を行った。独立した二株のヒト多能性幹細胞で共通して発現するcircRNAは約6700種類であった。これらのcircRNAが翻訳されタンパク質を生成しているかを調べるために、リボソーマルプロファイリング法を用いてヒト多能性幹細胞で翻訳されている領域の同定を行った。その結果、約28000か所の領域がヒト多能性幹細胞において翻訳されていることがわかり、配分は既知のCoding Sequence (CDS) が約60%、既知CDSのバリアント (翻訳開始または停止位置が異なる) が約20%で、残りの約20%が新規の翻訳領域であった。現在は、これら新規の翻訳領域がcircRNAの配列と一致するかを解析していることろである。 さらに、上記の研究で得た翻訳領域から実際にタンパク質が生成されていることを調べるために、プロテオーム解析を実施した。本課題を開始してから継続的に低分子タンパク質の検出法を検討してきたが、良好な結果が得られていなかった。本年度は低分子タンパク質に特化した質量分析を実施し良好な結果が得られている。今後は翻訳領域の塩基配列とタンパク質のアミノ酸配列を照らし合わせ、新規のタンパク質を同定する予定である。
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