研究課題/領域番号 |
21H02157
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
山田 晃嗣 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(生物資源産業学域), 講師 (40587672)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 糖シグナル / 免疫応答 / 植物 |
研究実績の概要 |
植物は強固な免疫システムを持ち、病原体の感染を防いでいる。本研究代表者は、植物の免疫機構のさらなる理解を目指し、これまでに免疫機構との関連性が解析対象として捉えられていなかった糖吸収に焦点をあてて研究を展開してきた。そしてその過程において、免疫応答時に植物の糖吸収活性が増強することや、糖トランスポーター変異体は免疫応答の活性化が弱まることを見出したことより、「糖は免疫応答を増強する働きがある」と仮説をたて、その分子メカニズムの解明に挑んでいる。 昨年度までに、非代謝性のグルコース類似体を用いることで糖がシグナル分子として機能し免疫応答を活性化させることを示唆する結果を得たことや、既知の免疫関連遺伝子の変異体を用いて糖誘導性の遺伝子発現を指標に糖-免疫応答のクロストークに関与する因子の探索を行い、糖処理により活性化するタンパク質リン酸化酵素を同定した。また、糖トランスポーターによる糖吸収活性の増強が細胞内の糖の量の増加を行い、そのタンパク質リン酸化酵素とは別の糖シグナルを活性化させることで免疫応答をさらに増強することも見出した。今後は糖シグナルによるタンパク質リン酸化酵素の制御機構に焦点を当てて解析を行うとともに、糖吸収が活性化するシグナル経路の分子機構も解析していくことで、糖-免疫応答クロストークの全体像の把握を目指し、新規因子の単離にも挑む。また、糖シグナルに関与する因子の同定のための変異体スクリーニングを行っており、原因遺伝子の同定に向けて解析を進める。また、糖の蓄積が環境要因に影響を受けることに着目し、糖シグナルの観点から環境要因が植物の免疫機構に干渉するメカニズムの理解を目指すことで環境変動にも頑強な免疫応答の制御法に向けた指針を得る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
糖シグナルの分子機構は不明な点が多く、糖がシグナル分子として機能しているか、また糖代謝によるエネルギーの増加によるシグナルの活性化なのか、の区別も難しいという問題がある。そこで本研究では非代謝性のグルコース類似体を植物に処理することで糖のシグナル分子としての可能性を探った。その結果、非代謝性のグルコース類似体を処理することで多くの免疫関連遺伝子の発現が上昇したことより、糖はシグナル分子として機能することで免疫応答を活性化させることが考えられた。また、免疫関連因子の変異体を用いて糖誘導性の遺伝子発現を指標に、糖-免疫応答クロストークに関与する因子の探索を行った。その結果、免疫関連遺伝子の糖誘導性に関与するタンパク質リン酸化酵素を見出した。また、糖を処理することでそのタンパク質リン酸化酵素の自己リン酸化が増加したことにより、糖によりタンパク質リン酸化酵素が活性化すると考えられた。そのタンパク質リン酸化酵素の制御機構としては、タンパク質脱リン酸化酵素が関与しており、糖によりタンパク質脱リン酸化酵素の活性が阻害されるため、タンパク質リン酸化酵素の活性が増強されることを見出した。また、免疫応答時に植物の糖トランスポーター活性が上昇し、細胞内の糖の蓄積量が増加することを見出した。さらに、糖トランスポーターを介した糖吸収では上記のタンパク質リン酸化酵素以外の糖シグナル経路が活性化していることを示す結果を得た。このことから、複数の糖シグナル経路が活性化し、植物の免疫応答に寄与していることが考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
今後においても糖-免疫応答クロストークの分子機構の解明を第一に解析を行う。糖シグナルに関与するタンパク質リン酸化酵素を同定したが、免疫応答による糖吸収の活性化によってそのタンパク質リン酸化酵素とは異なる経路の糖シグナルが活性化することが見出された。次年度ではさらにどのような糖シグナルが関与するのかの探索をさらに進めていく。糖誘導性の免疫遺伝子の発現を指標に変異体スクリーニングも進めており、原因遺伝子同定のための準備を進める。また、これまで得られた研究結果をまとめ、論文として公表するための準備を進める。
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