植物は強固な免疫システムを持ち、病原体の感染を防いでいる。本研究代表者は、これまでに免疫機構との関連性が解析対象として捉えられていなかった糖に焦点をあてて研究を展開してきた。 昨年度までに、非代謝性のグルコース類似体(2DG:2-デオキシグルコース)を用いることで糖がシグナル分子として機能し免疫応答を活性化させることを示唆する結果得たことや、既知の免疫関連遺伝子の変異体を用いて糖誘導性の遺伝子発現を指標に糖-免疫応答のクロストークに関与する因子の探索を行った。その結果、グルコースをリン酸化するヘキソキナーゼの酵素活性が2DG処理における免疫関連遺伝子の発現に重要であることが明らかになり、2DGがリン酸化されて生じる2DG6リン酸が免疫応答を活性化していることが考えられた。さらに、ヘキソキナーゼの下流で機能する因子としてカルシウム依存性プロテインキナーゼのCPK5を同定した。2DGを処理することで、CPK5の自己リン酸化活性が増強され、免疫応答の活性化に至る。本年度では特にその分子メカニズムの解明に注力した。そして解析の結果、CPK5を脱リン酸化して抑制しているプロテインフォスファターゼのABI1の活性が2DG6Pによって低下し、CPK5の自己リン酸化が増強し、免疫応答が活性化することを見出した。このことから、糖が免疫応答を活性化する機構の一端が明らかとなった。 植物細胞は病原菌を認識後、糖トランスポーターによる糖吸収活性を高めて細胞内の糖の量を増加させるが、その際はCPK5とは別の糖シグナルも活性化させることで免疫応答をさらに増強することも見出している。各病原菌に対して有効な免疫応答は異なり、状況に応じて適切な免疫応答を出力する必要がある。今回、病原菌分子の違いにより糖吸収活性の増強程度が異なり、それにより免疫応答の出力も変動することを見出した。
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