研究課題/領域番号 |
21H02161
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鳥山 欽哉 東北大学, 農学研究科, 教授 (20183882)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 育種学 / 遺伝学 / 遺伝子 / ゲノム / 植物 |
研究実績の概要 |
我々はインディカ品種Tadukanに由来する胞子体型の細胞質雄性不稔系統(CMS )/稔性回復系統(RF)を見いだしている。本研究では、このTadukanに由来するCMS /RF系統について、ミトコンドリアのCMS原因遺伝子の同定とゲノム編集を用いた証明、及び、稔性回復遺伝子のマップベースクローニングを行い、雄性不稔・稔性回復の分子基盤を明らかにすることを目的としている。 CMS原因遺伝子の同定:Tadukanミトコンドリアの全ゲノムのドラフトシークエンスを決定し、日本晴に無いorfを探索したところ、orf312を発見した。このorf312はWA型CMSの原因遺伝子であるWA352の後半部分と類似していた。また、減数分裂期と開花期の葯で発現しており、稔性回復遺伝子が存在すると、その転写量が減少することを発見した。これより、orf312がCMS原遺伝子の最有力候補とした。Tadukan由来CMS系統のorf312をゲノム編集技術の一つであるmitoTALENを用いてノックアウトし、稔性が回復することを明らかにして、orf312がCMS原因遺伝子であることを証明した。 稔性回復遺伝子のマップベースクローニング:Tadukanに台中65号を戻し交雑する過程において、稔性のある個体を選抜して、稔性回復系統を作出した。ファインマッピングと全ゲノム塩基配列解析(Whole Genome Sequencing)を行い、稔性回復遺伝子(Rf)候補を6個同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ゲノム編集技術の一つであるmitoTALENを用いてノックアウトし、稔性が回復することを明らかにして、orf312がCMS原因遺伝子であることを証明した。ミトコンドリアのゲノム編集は世界で3番目の成功であり、その成果について日本育種学会の東北支部会にあたる「東北育種研究集会」で発表して「優秀ポスター賞」を受賞し、さらに植物ゲノム工学分野の世界最先端トピックスを取り扱うKeystone symposia - Plant Genome Engineering: From Lab to Fieldでは、Short Talk対象に選ばれ、その概要はPlant genome engineering from lab to field-a Keystone Symposia reportとしてAnnals of the New York Academy of Sciences (IF=5.691)に共著で掲載された。これらで発表した内容を「TALEN-mediated depletion of the mitochondrial gene orf312 proves that it is a Tadukan-type cytoplasmic male sterility-causative gene in rice」と題する論文にまとめThe Plant Journal(IF=6.486)に投稿し、令和4年2月22日付でアクセプトされた。
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今後の研究の推進方策 |
稔性回復遺伝子のマップベースクローニング:稔性回復遺伝子(Rf)候補として同定した6個の遺伝子をクローニングし、相補性試験用のベクターを構築して、CMS系統に遺伝子導入する。結実が回復すれば、稔性回復遺伝子であることが証明できる。 胞子体型の開葯しない葯のメカニズム解明:Tadukan型CMSの稔性回復は胞子体型で行われる。このため、葯のタペート細胞に異常が生じ花粉の発芽能力が欠損する、あるいは、葯の裂開に関わるストミウムに欠陥が生じるのではないかと予想している。減数分裂期から開花期までの葯の切片を作成し、形態観察を行う。ORF312に対する抗体を作成し、ORF312の蓄積場所と蓄積時期を明らかにする。これらの解析により、開葯しない葯のメカニズムを解明する。
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