イネの塩感受性である日本晴と耐塩性品種であるPokkaliを用いて実験を行った。対照区と100 mMのNaClストレスを4日間処理した区において、それぞれの品種の葉を固定して150 nm間隔で1000枚程度の連続切片を作製した。切片の作製には、異なる3個体の葉を固定したブロックを用い、各ブロックから2細胞ずつ撮影して6反復として実験を行った。その結果、維管束の柔細胞に関しては、両品種とも道管との間に常に二次壁が発達している柔細胞と、道管との間に部分的に二次壁の肥厚が見られない細胞で構成されていた。両細胞内に存在する細胞小器官としてはミトコンドリアが多くを占めており、道管との間に二次壁が発達している細胞と、二次壁の肥厚が部分的に見られない細胞における体積率は、それぞれ3~5%、5~10%程度であった。二次壁が部分的に見られない細胞でのミトコンドリアの体積率は非常に高く、多量のエネルギーを作り出すことで物質の出入りに密接に関与していることが示唆された。塩ストレスを処理すると、両品種とも維管束の柔細胞に顕著な変化はなかった。維管束鞘細胞に着目すると、Pokkaliでは塩ストレス処理を行っても、細胞内に含まれる細胞小器官に顕著な違いは観察されなかったが、日本晴の維管束鞘細胞において、ミトコンドリアの数が3倍程度に増加して体積率が増加することが観察された。PokkaliではNaの地上部への移行を根で抑制する機構が存在するが、日本晴のような塩感受性品種ではNaなどの塩を地上部に過剰に蓄積してしまうため、地上部に移行した塩を葉肉細胞など感受性の強い細胞に蓄積させないようにするため、維管束鞘細胞においてミトコンドリアで多量のエネルギーを作り出して、塩を蓄積させる機構が存在することが示唆された。
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