研究課題
北海道産ニンニクには2つのpotyvirus、ネギ萎縮ウイルス(OYDV)とリーキ黄色条斑ウイルス(LYSV)が混合感染している。OYDVのアブラムシ伝搬に必須のタンパク質HC-Proのシーケンスを解析したところ、N末端に大きな欠失があり、北海道産OYDVはアブラムシ伝搬能を失っているものと推測された。研究代表者は、OYDVはアブラムシ伝搬をLYSVに依存しているのではないかという仮説を持った。アブラムシがウイルスを獲得するには、コートタンパク質(CP)-HC-Pro複合体がアブラムシの口針のStylin受容体に結合できるのではないかと想定され、この結合の存在の有無を明らかにしようとしている。昨年度、agroinfiltration法によってベンタミアーナタバコの葉で発現させたタンパク質を抽出し、OYDVのHC-Proとアブラムシの口針リセプタータンパク質(StylinとPR1)との間にdot blot法によって相互作用があることを検出できた。また、HC-ProのN末端に欠失あるものは、StylinやPR1と結合できないことも確認できた。一方、抗体によるpull-down法では、実験の再現性に問題があった。この理由として、HC-Pro同士によるポリマーの形成によって、HC-ProとStylinやPR1との結合に影響がでたためと考えられた。さらに、昨年度は、LYSVをリーキから分離してみたところ、その分離株(リーキ株)は、ニンニクからふつうに分離されるLYSVと明らかに異なる塩基配列をもっていた。しかも系統進化学的解析によって、リーキ株ではリーキへの宿主特異的な適応が進んでいることが判明した。Potyvirusの進化が宿主特異的に起きるという報告はまれである。OYDVとLYSVのアブラムシ伝搬にも宿主特異性が存在するのかもしれない。
2: おおむね順調に進展している
本研究は概ね予定通りに進んでいる。ただ、仮説が正しいか検証するには、材料として用いたウイルスタンパク質のアミノ酸配列の多様性がどの程度タンパク質間相互作用に影響するのか見極める必要がある。昨年度行った分離ウイルスの系統進化学的解析の結果から、OYDVとLYSVは宿主特異的に進化している実態が明らかになった。したがって、HC-ProやP1タンパク質の配列について、同じウイルス由来と考えられる場合であっても、様々に異なっていたことから、ウイルスタンパク質間、あるいはウイルスタンパク質とアブラムシの口針受容体間の相互作用についても、一様ではない可能性がある。例えば、「N-typeのHC-ProはOYDVのHC-Proをサポートできるが、S-typeのHC-Proにはそのような能力はない」など、一般化してLYSVとOYDVの混合感染を説明できないかもしれない。
次年度は、まず、LYSVやOYDVの宿主特異的進化について、さらなる系統進化学的解析を進める予定である。特にLYSVのリーキ特異的適応についてその要因を明らかにしたい。さらに、その情報を基に、「どのウイルス株のどのタンパク質を使用してタンパク質間相互作用の解析実験を進めるのか」を決定した後、「OYDVのCPがStylin (PR1)-HC-Pro複合体に結合することができるのか」、dot blot法によって解析する予定である。また、実験に用いるHC-ProがOYDVと同じpotyvirus属のLYSV由来の場合に、OYDVのCPさらにはStylin (PR1)との3者の間でどのような複合体を形成するのか解明する計画である。
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Plant Pathology Journal
巻: 38 ページ: 383-394
10.5423/PPJ.FT.06.2022.0077