研究課題/領域番号 |
21H02193
|
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
鈴木 丈詞 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (60708311)
|
研究分担者 |
福原 敏行 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (90228924)
レンゴロ ウレット 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10304403)
田原 緑 立命館大学, 立命館グローバル・イノベーション研究機構(BKC), 助教 (20849525)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | RNAi / ハダニ / 農薬 / Dicer / ナノ粒子 |
研究実績の概要 |
持続可能な害虫防除体系を構築するためには、抵抗性問題を繰り返す従来の化学合成農薬とは作用機構が根本的に異なる次世代農薬を開発する必要がある。その作用機構の候補の一つは、経口投与など、外部から導入された二本鎖RNA(double-stranded RNA: dsRNA)によって誘導されるRNA干渉(environmental RNAi: eRNAi)であり、RNA農薬と呼称されて世界的に研究開発が進めらている。 本研究では、植食性節足動物の中で抵抗性問題が最も深刻な害虫種であるナミハダニ(Tetranychus urticae Koch)を対象に、eRNAiの最有望標的である消化細胞(中腸上皮由来で、胃や網嚢の内腔で浮遊し、消化・解毒や貯蔵など重要な生理機能を担い、かつdsRNAを取り込む細胞)に焦点を当て、以下の4つのテーマの研究を進めた:A)消化細胞のdsRNA取込機構、B)消化細胞内でのdsRNAプロセッシング機構、C)消化細胞のオミックス解析とeRNAiスクリーニング、およびD)dsRNAの担体開発。 2021年度は、このうち、特に、A)消化細胞のdsRNA取込機構、B)消化細胞内でのdsRNAプロセッシング機構、およびC)eRNAiスクリーニングの研究を中心に進めた。A)では受容体媒介型エンドサイトーシスの関与が判明した。B)ではナミハダニのDIcerの機能解析を進めた。C)では生体アミンの受容体や輸送体の遺伝子を標的としたeRNAiを実施した。その結果、オクトパミン受容体はeRNAiを作用機構とする次世代農薬の標的として有望であることが判明した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
A)消化細胞のdsRNA取込経路の候補として、1)食作用、2)飲作用および 3)受容体媒介型エンドサイトーシスがある。このうち、受容体媒介型エンドサイトーシス関連の遺伝子を対してeRNAiした結果、消化細胞による食物の取り込みが阻害されることが判明した。B)消化細胞内でのdsRNAプロセッシング機構について、RNAi関連タンパク質(RNAiマシナリー)の内、dsRNAを認識し、短鎖干渉RNA(siRNA)を生成するDicer(RNase III)に関しては、すでに研究代表者の鈴木、分担者の福原・田原および協力者のV. Grbic博士(西オンタリオ大学)らが、その機能解析を先行して進めてきた。さらに2021年度の研究により、ナミハダニの2種類のDIcer(TuDCL1およびTuDCL2)のうち、TuDCL2のRNAiによるdsRNAを基質としたDicer活性(dsRNAの切断活性)が低下することも判明した。C)消化細胞のオミックス解析とeRNAiスクリーニングについて、さまざまな生理機能を司る生体アミンに着目し、その受容体や輸送体の遺伝子を標的としたeRNAiを実施した。その結果、オクトパミン受容体のeRNAiにより、生存率の低下、産卵数の減少、摂食量の減少および移動運動の活性化が観察された。D)dsRNAの担体開発については、dsRNAの負電荷特性を利用し、正電荷かつナミハダニが摂食可能なナノオーダーサイズ(直径500 nm以下)の環境低負荷物質を材料とし、dsRNA-ナノ物質の複合体を作製を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
消化細胞のdsRNA取込機構について、今後は、各取込経路における阻害剤の処理や、各取込経路での機能が推定される遺伝子のeRNAi処理や、消化細胞における蛍光タグを付けたdsRNAの取込の顕微観察を実施する。消化細胞内でのdsRNAプロセッシング機構について、今後はTuDCL2の機能解析に加え、消化細胞の効率的な採取方法を確立し、dsRNA依存的な発現変化をトランスクリプトームおよびプロテオーム解析から、その他のRNAiマシナリーにアプローチする。
|