研究課題
紋枯病は植物病原糸状菌Rhizoctonia solaniが引き起こすイネなどの主要病害である。本菌は宿主範囲が広く、他の様々な作物種においても収量や品質を悪化させる。病害防除には原因菌の感染生理の理解が不可欠だが、本菌の研究は進んでいない。本菌は感染後早い段階で壊死を引き起こすことから殺生菌に分類されており、宿主細胞を殺して栄養を摂取すると考えられてきた。しかし、我々はモデル単子葉植物であるミナトカモジグサを用いた研究から、本菌が感染初期に生きた宿主から栄養を摂取する活物寄生段階を経るという状況証拠を得た。本年は双子葉植物のモデルであるシロイヌナズナを用い、本菌の感染様式が他の植物種においても共通の事象であるか否かを検証した。まず日本国内から分離された17種類のR. solani菌株(13種類存在する菌糸融合群のうち7種類を含む)について、シロイヌナズナの切葉への接種および菌汚染土壌への移植接種を行い、感染性の有無について調べた。地上部と地下部の両方に感染性を示したものは6種類存在し、地上部のみに感染性を示したものは3種類、地下部のみに感染性を示したものは2種類であった。これらの感染性の有無と菌糸融合群や分離源との相関性はなかった。特定の宿主から分離される菌糸融合群が同一であることから、宿主特異性との関連が想定されてきたが、病原性は個々の菌株の性質に依存することが示された。次に、植物の免疫関連ホルモンであるサリチル酸、ジャスモン酸、エチレンを事前処理したシロイヌナズナに各菌株を接種し、誘導抵抗性の効果を調べた。その結果、いずれの植物ホルモン処理でも病原性株の感染性は変化しなかった。これはミナトカモジグサでサリチル酸が抵抗性を誘導する結果とは異なっていた。本菌はシロイヌナズナでは活物寄生段階が極めて短いか、植物種によって異なる感染プロセスを経る可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
本菌の感染生理の解明を目的として、シロイヌナズナでの動態を示すことができた。一方、菌が感染の初期段階で宿主植物に侵入している様子を捉えるため、プロトプラスト法を用いたGFP形質転換体の作出にトライしてきたが、導入遺伝子が安定的に維持されず、既報を超える結果を得ることができなかった。しかしこれは想定の範囲であり、別法として菌糸を免疫染色する手法に切り替えて実施する。
ミナトカモジグサおよびシロイヌナズナにおいて、感染初期に菌糸が宿主植物中に侵入している様子を捉える。このため、α-グルカン、β-グルカン、キチンを認識する抗体を用いた免疫染色を行い、共焦点蛍光顕微鏡による観察を行う。また異なる宿主であるオオムギにおける感染生理についても解析を進める。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Life
巻: 12 ページ: 76~76
10.3390/life12010076
アグリバイオ
巻: 5 ページ: 412~416