研究課題/領域番号 |
21H02202
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
伊藤 克彦 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (80725812)
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研究分担者 |
横山 岳 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (20210635)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | カイコ / 致死 / 寿命 / 突然変異 / ゲノム編集 |
研究実績の概要 |
カイコにおいて致死や寿命に関わる突然変異体は数多く発見されているものの、遺伝子レベルで明らかになった例は少ない。我々はこれまで、「幼虫の孵化直後の致死」および「成虫の寿命」に関わる2つの変異体の解析を進め、これらがそれぞれBmNRF6遺伝子ファミリーに所属する遺伝子によって制御されていることを発見した。NRF6遺伝子は、線虫とショウジョウバエで薬剤応答や成虫寿命等に関わることが報告されているが、これら以外には詳細な報告はない。またカイコのゲノム上には、我々が明らかにしたこれら2つの遺伝子の他に16種類のBmNRF6遺伝子が存在するが、それらの機能も未知である。そこで本研究では、BmNRF6遺伝子ファミリーのカイコの生理機能への影響を調べることで、チョウ目昆虫の生存にとってのNRF6遺伝子の役割を明らかにすることを目的とする。 「幼虫の孵化直後の致死」に関わる変異体「死蟻蚕」の原因遺伝子は、脂肪体で高発現していた。一般に昆虫の脂肪体は、エネルギーの貯蔵や供給に関わる重要な組織であることから、死蟻蚕の原因は、脂肪体におけるエネルギー代謝異常により生命活動を維持できなくなることで致死 (飢餓)しているという仮説を立てた。そこで初年度は、変異体と正常個体間のエネルギー代謝関連物質 (グリセロール量およびトリグリセリド量)の比較定量法の確立を行った。そして虫体からのエネルギー代謝関連物質の抽出試薬および抽出法を検討し、アッセイ系の構築に成功した。また、「成虫の寿命」に関わる変異体「成虫短命」においては、変異体と正常個体の表現型の比較解析を行い、変異体では成虫期において急激な体重の減少が認められた後、死に至っていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、(1) 死蟻蚕と命名された「幼虫の孵化直後の致死」に関わる遺伝子 (l-nl遺伝子)、(2) 成虫短命と命名された「成虫の寿命」に関わる遺伝子 (sli遺伝子)、そして(3) 新たに見出されたBmNRF6遺伝子群の表現型解析と生理機能の解析を行い、これらの遺伝子産物が生体内のどのような生命現象に関わっているのかを明らかにする。 (1) 死蟻蚕の解析:死蟻蚕の原因遺伝l-nlは、エネルギーの貯蔵や供給に関わる重要な組織である脂肪体で高発現していることから、変異体はエネルギーの代謝異常が原因で致死 (飢餓)していると考えた。この証明のため、初年度はエネルギー代謝関連物質としてグリセロールとトリグリセリドに着目し、虫体内におけるこれらの定量法の確立を行った。そして使用する抽出試薬や抽出法を検討し、アッセイ系の構築に成功した。また、l-nlがコードする膜タンパク質を検出するためのペプチド抗体を作製した。 (2) 成虫短命の解析:初年度は、成虫短命突然変異体と正常個体の表現型の比較解析を行い、変異体では成虫期に急激な体重の減少が認められ、死に至っていることを明らかにした。加えて加湿乾燥式水分計を用いた解析により、この体重の減少が体内における水分量の変化ではないことも明らかにした。 (3) BmNRF6遺伝子群の解析:初年度は、ステージ別 (胚子、幼虫、蛹および成虫)および組織別 (脳、神経、絹糸腺、精巣、卵巣、脂肪体、マルピギー管、前腸、中腸、後腸)のサンプリングを行い、BmNRF6遺伝子群の発現パターンを調査するためのcDNAを合成した。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 死蟻蚕の解析:本年度は、確立したエネルギー代謝関連物質 (グリセロール量およびトリグリセリド量)の定量法を用いて、変異体と正常個体におけるこれらの物質の比較定量を行う。また初年度に作製したペプチド抗体を用いて、l-nlがコードする膜タンパク質の組織内における局在を調査する。この免疫染色を行うためには、変異体と正常個体の虫体切片を作製する必要があるので、その実験系を立ち上げる。 (2) 成虫短命の解析:本年度は、死蟻蚕の研究で確立した手法を用いて、変異体と正常個体におけるエネルギー代謝関連物質の比較定量を行う。一方で初年度に実施できなかったゲノム編集による候補遺伝子のノックアウト系統の作出を進め、単離している遺伝子が確実に成虫短命に関わっているのかを証明する。 (3) BmNRF6遺伝子群の解析:本年度は、初年度に作製したステージ別および組織別の遺伝子発現を調査するためのcDNAを用いて、16種類のBmNRF6遺伝子群の発現パターンの調査を行う。それにより、それぞれの遺伝子の発現時期 (いつ)および発現組織 (どこで)を特定する。また、ゲノム編集により、他のBmNRF6遺伝子をノックアウトした系統を作出し、それらがどのような表現型に関わるのかを調査する。
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