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2021 年度 実績報告書

遺伝情報・深層学習・GISを用いた博物館標本の時空間情報と遺伝的多様性変化の解明

研究課題

研究課題/領域番号 21H02215
研究機関東京大学

研究代表者

矢後 勝也  東京大学, 総合研究博物館, 講師 (70571230)

研究分担者 大場 裕一  中部大学, 応用生物学部, 教授 (40332704)
奥山 雄大  独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 研究主幹 (40522529)
中濱 直之  兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 講師 (50807592)
平川 翼  中部大学, AI数理データサイエンスセンター, 講師 (60846690)
福井 弘道  中部大学, 中部高等学術研究所, 教授 (90286625)
研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2024-03-31
キーワード昆虫 / 自然史 / 画像認識技術 / 空間相関解析 / 集団遺伝解析 / 保全 / 絶滅危惧種 / 遺伝的多様性
研究実績の概要

博物館等で膨大に蓄積された昆虫標本、特に翅形・斑紋の地理的変異が見られる絶滅危惧種(ギフチョウ等)の標本を用いて超並列シーケンシングにより過去平均50年、最大100年の遺伝学的変遷を集団ゲノム学的に復元し、各地域集団の固有性・遺伝構造と時系列的な遺伝的多様性変化を明らかにするとともに、得られた遺伝情報と深層学習による翅の画像認識から放蝶やノーラベルのような由来不明の標本の時空間情報が推定できる可能性を検証した。また、GISデータを重ねて過去から現在までの環境情報を経年的に復元し、各地域・時期における遺伝的多様性変化や絶滅・減少を招いた要因を解明することも目的とした。
本研究の主体である絶滅危惧チョウ類の集団遺伝解析・深層学習による画像認識・GISデータによる空間相関解析の3つのうち、集団遺伝解析では、標本のデータベース化を進めて選別しやすくした他、想定していた50集団中の1/3程度のサンプルから脚部を採取してDNA抽出を行ない、その内の一部の解析を行なった。深層学習による画像認識では、計2,582個体のデータを活用し、深層学習に基づく画像認識技術を応用して斑紋の画像を定量的な分類を行うとともに、本種の地域変異が対応すると考えられる食草各種とチョウの斑紋との関連性を考察した。産地、性別、食草のラベル情報を付与した画像認識データセットを活用してMulti-task ABNにより食草分類を行った結果、ある特定の種に対しては約98%の分類精度が得られ、その有効性が確認できた。また、高精度で分類された時のAttention mapを可視化することで、斑紋の一部分に着目して分類していることが分かった。GISデータによる空間相関解析では、標本のラベルデータと食草分布に関する情報を必要量の半分程度をインプットした段階にあり、今後はさらに追加していくことで解析を進める予定である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

集団遺伝解析に関しては20%程度の達成度である。コロナ禍や世界情勢による影響から解析を効率良く進めるための超微量分光光度計やDNA濃度測定機、高性能サーマルサイクラーなどの高額精密機器の購入が長くできず、思うように実験が進められなかった。また、他県や他施設への移動の制限もあったことから、サンプルの収集や採取が滞り、DNA抽出やPCR等の実験にも大きな遅延が生じた。
深層学習による画像認識に関しては80%ほどの達成度である。学習データと評価データを含むある程度の画像認識データセットを作成することができた。また、これらのデータに基づいて翅型・斑紋によるチョウの地理的変異と食草各種との関連性を考察して、その有効性も示すことができ、成果の一部も発表することができた。その一方で、地域によりデータに隔たりが見られ、特に西日本産の標本のデータが不足していて、一部で綺麗な結果として示せない課題も見えている。
GISデータによる空間相関解析では60%ほどの達成度である。主に標本のラベルデータと食草分布に関する情報をインプットする作業に取り組んだが、コロナ禍による施設内での謝金雇用者の制限が続いていたため、想定よりもデータ入力に遅れが生じてしまっている。

今後の研究の推進方策

集団遺伝解析については、超微量分光光度計やDNA濃度測定機、高性能サーマルサイクラーなどの高額精密機器が令和4年度末になってようやく納入されたため、今後はこれらの遅れをなるべく早く取り戻すべく、遺伝子実験およびそれらに基づいた解析を進めるよう努力する。また、引き続き必要な標本のデータベース化を進めながら、カバーしきれなかった重要な研究材料の収集等に重点を置く。
深層学習による画像認識については、今回用いたデータセットでは中部・東海地方の産地が多く、この地域での精度は極めて高かったが、それ以外の地域における精度はやや低かった。そのために不足している産地データを増やして全体的にバランスを合わせることが解決策として考えられた。また、雌雄で翅型・斑紋も異なることから、それぞれ別の条件で解析するつもりである。
GISデータによる空間相関解析では、これまでに気候、地形、標高、植生、開発、土地利用等の環境情報は概ねインプットされている他、本研究がスタートしてからは標本データと食草分布に力を注いできたが、まだシカ食害に関するデータが入れられていないことから、現在のシカ分布をデータとして組み込むことにより、環境情報に関するデータの充実を図る。
ここまでの成果を学会等で発表するとともに、一部のデータに関しては論文執筆等を進める。さらに代表者が所属する博物館にて開催予定の展示において研究成果の一部を発表することで、本成果を社会に広く公開発信する。

  • 研究成果

    (19件)

すべて 2022 2021 その他

すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 オープンアクセス 3件、 査読あり 2件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 3件) 図書 (1件)

  • [国際共同研究] University of Florida/Harvard University/City College of New York(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      University of Florida/Harvard University/City College of New York
    • 他の機関数
      2
  • [国際共同研究] Taiwan Nomal University(その他の国・地域)

    • 国名
      その他の国・地域
    • 外国機関名
      Taiwan Nomal University
  • [国際共同研究] South China Agricultural University(中国)

    • 国名
      中国
    • 外国機関名
      South China Agricultural University
  • [雑誌論文] 画像認識技術を用いた蝶斑紋地域変異の定量的考察2022

    • 著者名/発表者名
      矢後勝也・平川 翼・川村真也・大場裕一・名和哲夫・杉田 暁・小檜山賢二・福井弘道
    • 雑誌名

      IDEAS Joint Usage/Joint Research Report

      巻: 2021 ページ: 49-53

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] Catalogue of the Keiichi Omoto Butterfly Collection, The University Museum, The University of Tokyo. Part 2 (Papilionidae: Papilioninae)2021

    • 著者名/発表者名
      Yago, M., Katsuyama, R., Harada, M., Teshirogi, M., Ogawa, Y., Ishizuka, S. and Omoto, K.
    • 雑誌名

      The University Museum, The University of Tokyo, Material Reports

      巻: 127 ページ: 1-145

  • [雑誌論文] 2020年の昆虫界をふりかえって-蝶界 (I)-2021

    • 著者名/発表者名
      矢後勝也
    • 雑誌名

      月刊むし

      巻: 603 ページ: 2-21

  • [雑誌論文] 2020年の昆虫界をふりかえって-蝶界 (II)-2021

    • 著者名/発表者名
      矢後勝也
    • 雑誌名

      月刊むし

      巻: 604 ページ: 34-39

  • [雑誌論文] Simple and complex, sexually dimorphic retinal mosaic of fritillary butterflies2021

    • 著者名/発表者名
      Ilic, M., Chen, P.-J., Pirih, P., Meglic, A., Prevc, J., Yago, M., Belusic, G. and Arikawa, K.
    • 雑誌名

      Philosophical Transactions of the Royal Society B

      巻: 377 ページ: 20210276

    • DOI

      10.1098/rstb.2021.0276

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] First Annotated Genome of a Mandibulate Moth, Neomicropteryx cornuta, Generated Using PacBio HiFi Sequencing2021

    • 著者名/発表者名
      Li, X., Ellis, E., Plotkin, D., Imada, Y., Yago, M., Heckenhauer, J., Cleland, T. P., Dikow, R. B., Dikow, T., Storer, C. G., Kawahara, A. Y. and Frandsen, P. B.
    • 雑誌名

      Genome Biology and Evolution

      巻: 13 (10) ページ: evab229

    • DOI

      10.1093/gbe/evab229

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] 小笠原固有の絶滅危惧種オガサワラセセリの自然史と保全2021

    • 著者名/発表者名
      矢後勝也
    • 雑誌名

      昆虫と自然

      巻: 56 (6) ページ: 19-24

  • [学会発表] オガサワラセセリの自然史と保全2022

    • 著者名/発表者名
      矢後勝也・葉山佳代・庄子恭平・中村康弘・蓑原 茂・和田慎一郎
    • 学会等名
      日本蝶類学会2021年度大会
  • [学会発表] 深層学習による画像認識技術を用いたチョウ斑紋の地理的変異に関する定量的考察2022

    • 著者名/発表者名
      矢後勝也・平川 翼・小檜山賢二・名和哲夫・大場裕一・川村真也・杉田 暁・福井弘道
    • 学会等名
      2021年度問題複合体を対象とするデジタルアース共同利用・共同研究拠点成果報告会
  • [学会発表] 深層学習の特徴抽出過程を利用したチョウ翅模様の形質間距離の解析2022

    • 著者名/発表者名
      網野 海・平川 翼・矢後勝也・松尾隆嗣
    • 学会等名
      日本生態学会第69回大会
  • [学会発表] AIによる画像認識技術を用いたチョウ斑紋の地理的変異に関する定量的考察(予報)2022

    • 著者名/発表者名
      矢後勝也・平川 翼・小檜山賢二・名和哲夫・川村真也・大場裕一・杉田 暁・福井弘道
    • 学会等名
      日本鱗翅学会関東支部会2022年春のつどい
  • [学会発表] 大学博物館での標本データベース構築と公開発信2022

    • 著者名/発表者名
      矢後勝也
    • 学会等名
      日本応用動物昆虫学会第66回大会小集会「昆虫データベースの現状と今後の展開 -DX化にむけて-」
    • 招待講演
  • [学会発表] チョウ類研究に関する最近の成果-分子系統、生物地理から保全まで-2021

    • 著者名/発表者名
      矢後勝也
    • 学会等名
      グループ多摩虫総会記念講演会
    • 招待講演
  • [学会発表] 絶滅危惧チョウ類の分子系統地理 -日本固有種・固有亜種のルーツを探る-2021

    • 著者名/発表者名
      矢後勝也
    • 学会等名
      練馬区立稲荷山図書館・昆虫講演会
    • 招待講演
  • [学会発表] 最絶滅危惧チョウ類の保全と農林業・地域住民との共存共栄をめざして2021

    • 著者名/発表者名
      矢後勝也
    • 学会等名
      自然保護助成基金協力型助成オンライン交流会
  • [図書] 角川の集める図鑑GET! 昆虫2021

    • 著者名/発表者名
      丸山宗利・矢後勝也・神保宇嗣(監修)
    • 総ページ数
      272
    • 出版者
      (株)KADOKAWA
    • ISBN
      978-4-04-109058-9

URL: 

公開日: 2023-12-25  

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