この研究では、木材やセルロースの試料を対象に、結晶量、結晶構造、ミクロフィブリル傾斜角(MFA)、THzマッピングシステム、熱処理による劣化のモニタリングといった多角的な視点から分析と測定を行い、各項目で顕著な成果を上げている。まず、結晶量については、ボールミルおよび化学処理を通じて結晶化度を調整し、THz-TDs、IRスペクトル、X線回折チャートを取得した。結晶量の見積もりは、X線回折とIR分光法に加え、密度やセルロース含有量から行っており、得られたデータを用いてLambert-Beer則によりTHzによる結晶量の推定を可能にしている。結晶構造に関しては、すでにIα、Iβ、IIに由来する吸収周波数を特定し、論文発表を行っている。MFA測定においては、ラディアルストリップを試料に用いてSilviscan測定を行い、MFAや結晶化度、密度、細胞形状の分布データを得た。さらに、THzスペクトルの複屈折性と二色性を偏光ユニットを用いて測定し、MFAの予測が行える段階にある。THzマッピングシステムはx-y2軸駆動光学ステージを導入し、試料の走査によるTHz透過パルス波形の計測を可能にしている。これにより、含水率、密度、結晶量の空間分布を解析するためのプログラムも作成した。最後に、THz波透過窓を持つ温度制御セルを製作し、熱処理による結晶変化の時間・空間的な変化を測定した。現成木と古材の両方に熱処理を施して、反応速度論と拡散方程式の組み合わせによってモデル化し、木材の古材化と熱処理における違いを把握している。このように、研究計画に基づいてすべての項目で進捗があり、木材の劣化に関する新たな知見を得つつある。
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