研究課題/領域番号 |
21H02256
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
寺本 好邦 京都大学, 農学研究科, 准教授 (40415716)
|
研究分担者 |
高野 俊幸 京都大学, 農学研究科, 教授 (50335303)
矢部 富雄 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (70356260)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | セルロースナノファイバー / 物質可溶化 / 金属ナノ粒子 / マルチスケール解析 / データサイエンス |
研究実績の概要 |
セルロースナノファイバー(CNF)の社会実装を加速するには,シンプルな手法でCNFにしかできない材料コンセプトを作り込む,という事例を積み重ねる必要がある。そのために,CNFならではの「実体として存在する大きな表面」を,異種成分(ゲスト)と組み合わせて活かす技術基盤を構築している。CNFの表面は,(A) そのまま,あるいは(B) シンプルにコート・加工して使う。広く訴求し得るターゲットとして,Aでは難水溶性医薬の可溶化,Bでは凝集せず錆びない銅ナノ粒子をCNF上で作り電気回路として使うことを目指している。手法としては,機械学習に基づくマテリアルズインフォマティクス(MI)をCNF研究に活用しようとしている。 これまでの具体的な実績の概要は下記の通りである。 (A) 機械学習の一つである罰則付き線形重回帰分析を用いて,難水溶性のゲストをTEMPO酸化CNF(TOCN)や水溶性セルロース誘導体と複合化した際の溶出挙動の予測モデルを構築し,溶出挙動に関わるゲストの物性因子の解明を試みた。目的変数にはTOCNとゲストの複合体からのゲストの溶出濃度の実測値を,説明変数には計算あるいは実測により得たゲストの物性値を設定した。訓練データから5つの説明変数が抽出され,テストデータを用いてモデルを検証した結果,一定の精度でTOCNによる水溶性向上効果を推定できることが分かった。 (B) 安価な金属種である銅による導電性基板の作製を志向し,CNFを足場材として活用することを試みた。まずCNFに対して,還元性やキレート能を付与するポリドーパミンによる表面修飾をあらかじめ施し,銅ナノ粒子をその場合成した。得られた銅ナノ粒子水分散液はインクとして用いることで紙基板にスクリーン印刷することが可能であった。印刷後にプレスおよび真空雰囲気下で焼成することで近接する銅ナノ粒子同士が焼結し,導電性を示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(A) 当初の想定通り,複数種のナノセルロースと水溶性セルロース誘導体について難水溶性ゲストの溶出挙動の予測モデルを構築することができている。その結果,ゲストの水溶性化に影響力の大きい構造の特徴を抽出することが可能となっている。 (B) 当初の目的通り,CNFを足場とした銅ナノ粒子の調製と,ポリドーパミンコーティングによる銅ナノ粒子の酸化抑制挙動を見いだせている。複合体のスクリーン印刷適性と,低温焼成で導電性を発現することもわかっていることから,順調な進捗といえる。
|
今後の研究の推進方策 |
(A) CNFは医薬の体内への取り込みを助けるか? この目的で,動物細胞を用いてゲスト分子の膜の「透過率」を評価する。「透過率」にホストの共存による浸透圧変化がどのように影響するかについて,細胞外に低分子物質を種々の濃度で添加して浸透圧を変えて調べる。水溶性セルロース誘導体をホストとした場合の影響を調べ,CNFをホストとした場合のバイオアベイラビリティを特徴づける。 B2: 銅NPを貴金属NPに変換できているのか? 銅NPの生成密度を上げる(=NP間距離を狭くする)ことは,プラズモン(増強電場)とその近傍にある分子のラマン散乱シグナルの著しい増強につながる。そういった量子光学効果の制御の知見も得る。PDAの木質成分への置き換えのために,リグニンの脱メチル化法を適用し,木質廃棄物からの万能コーティング剤の開発にも着手する。
|