研究課題/領域番号 |
21H02270
|
研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
河邊 玲 長崎大学, 海洋未来イノベーション機構, 教授 (80380830)
|
研究分担者 |
阪倉 良孝 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (20325682)
中村 乙水 長崎大学, 海洋未来イノベーション機構, 助教 (60774601)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | カンパチ / バイオロギング / 産卵場 / 回遊経路 / 遺伝子解析 / 東シナ海 |
研究実績の概要 |
1)行動調査:まず、前年度に薩南海域からカンパチに取り付けて放流した行動記録計(以下、記録計)の回収作業を行った。2022年6月19日に屋久島周辺海域への浮上が確認でき、屋久島から漁船を用船して作業を実施した。海況の悪化もあり、物理的に回収できた記録計は1台にとどまったが、他の記録計のデータも人工衛星との通信を経由して回収に成功した。次に、東シナ海中部からの放流作業を行った。2023年2月28日に沖縄本島北部から漁船を用船して、成熟した親魚2個体に深度・水温・水平位置情報を経時記録できる切り離し浮上式行動記録計を取り付けて放流した。放流した2個体から尻鰭の一部を切除して、種と雌雄判別のために遺伝子解析に供した。記録計は放流から産卵期(1-4月)が完全に終了した2023年7月上旬に切り離し装置が作動するように設定しておいた。 2)遺伝子解析:行動調査で用いた個体から採取した鰭サンプルを遺伝子解析に供したところ、5個体全てがカンパチであり、3個体が雌で2個体が雄であると判定された。 3)データ解析:薩南海域におけるカンパチ成魚の遊泳行動を取得し、台湾東部海域の既往知見と比較した。薩南海域の個体は台湾東部の個体よりも移動範囲が狭く、放流した海域の近傍に留まり続けていた。海域間で滞在深度は異なっていたが経験水温は同程度であった。放流時に個体から採取した鰭の一部を遺伝子解析した。核DNAのITS領域とmtDNAのcytochrome b領域の塩基配列情報を用いて標識個体の種判別を試みたところ、形態的にはカンパチであるにも関わらず、ヒレナガカンパチと同様のcytochrome b領域のPCR-RFLPパターンを示す個体が見られた。 4)業績:本課題の成果と以前のデータを解析して2報の論文として公表した。国内学会で2件、関連内容を報告した(水産学会春季大会および水産海洋学会研究発表大会)
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、東シナ海産カンパチの主産卵場である台湾東部海域以外に産卵場が存在するのかを精査し、東シナ海全体における産卵生態と個体群構造を詳らかにすることが目標としている。 行動調査は当初の計画通りに東シナ海北部におけるカンパチの産卵期を含めた回遊記録を得ることができた。東シナ海北部の個体は産卵期を含めて台湾の群れとの交流は認められず、東シナ海にカンパチの産卵場は複数個所が存在することを明らかにできた。この成果をふまえて、東シナ海中部での放流調査を開始することとなった。東シナ海中部にも別の産卵場が存在するのか、それとも、台湾あるいは東シナ海北部の既存の産卵場に移動するのかを調べることが最終年度の目的となる。 以上より、最終年度を迎えるにあたり、おおむね当初の計画通りに進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
1)行動調査・データの解析:本年度の当該調査は、行動記録計(以下、記録計)の回収して、データ解析を行うことを目指す。具体的には昨年度の2023年2月に放流した2個体のカンパチ成魚に取り付けた記録計が放流から産卵期(1-4月)が完全に終了した2023年7月上旬に魚から切り離された海面に浮上することから、これらの記録計の物理的な回収を目指す。沖縄本島北部から放流した個体の行動記録が得られ次第、産卵期を含む放流期間の、(1)位置情報(緯経度)から産卵期を含む移動軌跡・分布、(2)経験水温記録から生息水温・産卵水温範囲、(3)産卵を伴う特異的な鉛直遊泳行動(業績2:Yasuda et al 2013 J Sea Res)を抽出し、いつ、どこで産卵行動が起こったのかを秒単位の高い解像度で再現する。 2)遺伝子解析:行動調査で用いた個体から採取したヒレサンプルを遺伝子解析に供して、種判別と性判別を行う。 3)成果とりまとめ:これまでの3年間の調査とデータ解析から得られたパラメータを統合して解析し、以下の仮説の検証を行う。また、最終年度の成果を関連の学会で発表し、投稿論文化を目指す。 (仮説1) 産卵場が台湾東部だけに存在する結果となった場合:東シナ海産のカンパチは台湾東部を唯一の産卵場とする個体群構造をもつ (仮説2) 産卵場が台湾東部以外にも存在する結果となった場合:東シナ海産のカンパチは複数の局所個体群をもつメタ個体群になっていると考えられる
|