生殖細胞形成機構の分子基盤を明らかにするために、生殖細胞形成に必要・十分なdnd1遺伝子を強制発現させたメダカ胚と野生型胚(胞胚期)においてRNAseq解析を行い、dnd1遺伝子の下流で働く遺伝子の同定を試みた。野生型胚に比べ、dnd1の強制発現によって発現上昇した遺伝子が514、発現低下した遺伝子が954得られた。特に発現の上昇が顕著であった候補遺伝子をCRISPR-Cas9によってノックアウトしたところ、生殖細胞の数の減少が見られた。従って、本研究によって得られたトランスクリプトームは、生殖細胞形成の分子基盤解明の基礎データとなるため、さらなるスクリーニングを通して生殖細胞形成に必要な因子の同定を目指す。 nanos3は生殖細胞形成に必要な遺伝子として知られているが、ニジマスを始めとするサケ科魚類において複数のパラログが存在する。Ensemblゲノムデータベース上を探索したところ、ニジマスには9遺伝子が見つかり、それら全てをq-RT-PCRによって卵巣と精巣における発現量を定量したところ、顕著に発現量の高い1つのnanos3 パラログ(rt_nanos3と命名)を同定した。in situ hybridizationによってrt-nanos3の卵巣における遺伝発現を調べたところ、卵母細胞に局在していたことから、rt-nanos3は母性因子として卵に蓄積されている可能性が考えられる。一方、発現量の低いnanos3の多くは、タンパク質機能ドメインである、CCHC-type zinc finger上に変異が蓄積していたことから、偽遺伝子化しつつある可能性が示唆された。今後、rt_nanos3をCRISPR-Cas13dによってノックダウンし、ニジマス生殖細胞の欠損を確認できれば、サケ科魚類の新たな不妊化技術の確立に貢献できる。
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