研究課題/領域番号 |
21H02291
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研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
仙北谷 康 帯広畜産大学, 畜産学部, 教授 (50243382)
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研究分担者 |
森岡 昌子 帯広畜産大学, その他部局等, 助教 (40838538)
河野 洋一 帯広畜産大学, 畜産学部, 准教授 (80708404)
岩本 博幸 帯広畜産大学, 畜産学部, 准教授 (90377127)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 家畜病傷事故 / 生産獣医療 / アニマルウェルフェア |
研究実績の概要 |
令和3年度は新型コロナウィルス感染症拡大のため、調査研究がほとんど進展しなかった。そのため取り組みが令和4年度前半に持ち越されることとなった。令和4年度前半の実績の1つとして公益財団法人全国農業共済協会が発行する雑誌「家畜診療」からの依頼で、これまでの家畜保険に関する成果を公表できたことがある。 「家畜診療」は、主としてわが国の臨床獣医師向けの技術雑誌であるが、その編集委員会からの依頼で、デンマークにおける家畜保険の現状とその特徴を紹介した。家畜保険制度への加入は畜産農家自らの経営判断であり、そこに公的な補助金等は存在しない。そのため家畜保険を提供する企業は保険理論に則って市場が存在すると判断される商品のみを提供する。つまり畜産農家の経営経済的な判断で加入することが妥当と判断される保険商品のみの設計・提供となっている。 その結果、デンマークの家畜保険にはわが国の共済制度でいうところの病傷共済が存在しない。そのため獣医師にとっては「疾病傷害治療市場」が縮小していることが想定され、その意味では本研究課題が研究対象としている「病傷治療費」は低く抑えられている可能性がある。保険制度がいかにあるべきか、ということは単に畜産への影響にとどまらず、獣医療のあり方、さらにはアニマルウェルフェアなどの面など広い範囲からの考察が必要であることを示唆している。 令和3年度に実施できず4年度に持ち越した取り組みとしては、移動制限による海外調査があり、令和4年度前半にははじめて韓国調査を実施することができた。ここで韓国において家畜保険を販売する民間企業から資料等を入手すると共に、韓国における家畜保険の制度設計に大きな役割を果たしている韓国農村経済研究所と情報交換し、後に述べるよう令和4年度後半の取り組みにつながったことは大きな成果と言えるであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年9月に、令和3年に実施する予定であった第1回目の韓国調査を実施した。穂門先は家畜保険を販売する民間企業であるNH損害保険と、韓国農村経済研究所(KREI)である。 NH損害保険では、過去の農業保険に関する統計書を入手するとともに、これまで得られた知見をもとに、韓国における畜産農家の畜産保険利用の実態に関する意見交換を行った。この中では特に養豚農家と酪農家の比較では養豚農家の保険加入率が高く酪農家の加入率が低いこと、これがわが国の家畜用再加入率における酪農家と養豚農家の関係と全く逆であることが特徴的なこととして指摘してきた。これについてNH損害保険の見解を求めたが、十分その根拠が明確になっているとは言いがたく、このことの解明が家畜保険の畜産経営の経営経済行動と深く関わっていることが示唆された。(三宅、仙北谷) 韓国農村経済研究所では、農業保険を調査研究する研究者と意見交換することができた。この中で特に韓国では今後病床保険導入が計画されているのであるが、専攻して病傷共済が導入されているわが国の実情について、その効果や実績、制度の特徴について説明した。その上で今後、帯広畜産大学と韓国農村経済研究所で、研究上の連携を深めていくことが確認された。 令和4年度前半の取り組みとしては、6月に北海道農業共済組合北見支所を訪問し、北見網走地区の家畜共済および農業収入保険加入の実情について聞き取り調査を行った。さらには網走地区における酪農家の、牛ウェアラブル端末利用による家畜疾病予防効果について聞き取り調査を行うとともに、詳細なデータ提供を得た。今後これらの分析により、獣医師による生産獣医療と、これを保管するシステムの効果について分析を進める予定である。(森岡、仙北谷)
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今後の研究の推進方策 |
この部分の記述については、すでに実施されている令和4年度の取り組みおよびその実績ということになる。具体的には令和4年度秋の農業経営学会での報告、韓国家畜保険の調査継続、牛ウェアラブル端末の効果の評価、大規模酪農家におけるアニマルウェルフェアに配慮した使用管理方式の評価と従業員教育の評価、管理獣医師の役割の評価、これらに関する調査の継続ということである。 韓国家畜保険調査では、第1回の調査を終了して制度および期間に関する聞き取り調査を実施することができたので、引き続き酪農家、養豚農家の調査を実施する。さらには第1回の調査の中で、畜産インテグレーションの役割が示唆されたため、食肉加工企業等の調査を実施し、養豚のインテグレーションと家畜保険利用の関連についても調査することとする。 牛ウェアラブル端末については、これを利用する酪農家から端末に関する情報と乳検に関する情報が得られたので、これについて分析を継続することとする。 道内の大規模酪農家に関しては、農場従業員の場内研修の場に参加し、農場と契約する管理獣医師の役割を調査する。またこれに関して従業員教育、従業員の各職務に対する満足度も調査し、業務の割り当て、従業員のスキルおよび知識の習得の関連を明らかにする。
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