研究課題/領域番号 |
21H02291
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研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
仙北谷 康 帯広畜産大学, 畜産学部, 教授 (50243382)
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研究分担者 |
森岡 昌子 帯広畜産大学, その他部局等, 助教 (40838538)
河野 洋一 帯広畜産大学, 畜産学部, 准教授 (80708404)
岩本 博幸 帯広畜産大学, 畜産学部, 准教授 (90377127)
三宅 俊輔 帯広畜産大学, 畜産学部, 准教授 (80462406)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 生産獣医療 / アニマルウェルフェア / 家畜病傷共済 |
研究実績の概要 |
令和4年度日本農業経営学会研究大会において「家畜と経営におけるアニマルウェルフェアの便益―乳牛疾病傷害共済事故を例として―」(仙北谷康・森岡昌子・三宅俊輔)として個別報告を実施した。この中で、アニマルウェルフェアの考え方を整理しながら、アニマルウェルフェアを疾病傷害との関連から考察し、我が国における家畜共済,特に病傷共済事故の状況を踏まえ現状を検討した。 一般的に動物と人間のベネフィットはトレードオフの関係にあると思われがちであるが、しかしその関係は多様である。家畜と人間の便益がトレードオフの状態にあるとしても疾病傷害等により家畜の能力が十分に発揮できない場合があり得ること、これが改善されれば家畜にとっての便益と人間にとっての便益が共に改善することがあり得ること、そのために家畜の快適性に配慮した飼養管理が重要であることを明らかにした。 わが国では平成25年以降,乳牛個体価格の上昇が著しい。乳牛は酪農経営体にとって生産手段であり資産である。一般的に資産価格が上昇すると人はその価値を毀損したくないからその資産を丁寧に扱うようになると考えられる。このため酪農では乳牛個体価格が上昇するとアニマルウェルフェアに配慮した酪農が行われるようになると考えられる。 これに対して家畜共済における病傷共済についてみると、病傷事故のうち最も割合の高い乳房炎を含む泌乳器病の動向はこの間一貫して減少傾向にある。乳房炎は飼養者の衛生意識や牛舎内環境をできるだけ清潔に保ち乳牛の快適性に配慮することで、ある程度防ぐことができる疾病といえる。泌乳器病の発生が低下していることはこの点での改善がみられているためと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
北海道における雇用型大規模酪農経営体における、従業員教育、管理獣医師の役割、に関する調査研究を進めている。この中で従業員の乳牛管理に関するスキルアップが待遇の改善とリンクするなど興味深い点も明らかになっている。調査対象の農場では、従業員の知識、修得スキルをシートとしてまとめ、その記録とそれが農場の成果にどのように貢献するのかを整理することによって雇用待遇の改善にリンクさせている。その評価の透明性は高く、従業員のモチベーション向上維持に効果的であるといえる。さらに経営体とは長期的な共同研究関係の維持が確認されており、広範な協力関係が期待される。(河野、岩本、仙北谷) 韓国における家畜保険制度に関する調査研究を継続させている。この中では現在モデル事業的に実施されている病傷保険についても調査されており、韓国農村経済研究所からは、今後の病傷保険の制度設計について助言を求められている。韓国農村経済研究所、韓国江原大学等との協力のものと、保険会社、酪農家、養豚農家への調査を実施しておりデータが得られている。この中で韓国における養豚経営は保険的な動機で家畜保険に加入していること、逆に酪農経営は、乳牛に対する家畜保険が保険的ではないことから保険加入を中止するなど、興味深い知見が得られている。(三宅、仙北谷) 家畜病傷事故発生の実情について、獣医師から聞き取り調査を実施し、その実情が明らかになった。この中でわが国における畜産経営体の家畜共済加入率が、酪農経営体、養豚経営体で異なること、その高低の関係が韓国とは全く逆であることの理由が示され、今後の調査における仮説構築に非常に有意義な知見が得られた。(三宅、森岡、仙北谷)
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今後の研究の推進方策 |
北海道内の大規模酪農経営体における飼養管理の実態を、アニマルウェルフェアの視点から分析する。分析対象経営体では、乳牛個体の徹底的能力分析をすすめ平均乳量が1万キロから1万2千キロと飛び抜けた高泌乳を実現している。しかし疾病が極端に少なく、その意味で人間の便益と家畜の便益(アニマルウェルフェア)の両方の高度化を実現している。農場の家畜飼養管理システムの構築にはこの農場と契約する管理獣医師の役割が大きい。つまり単に家畜の疾病を未然に防ぐ飼養管理だけでは無く農場のシステムがアニマルウェルフェア実現と高生産性の両立を実現しているのである。この点をデータとして裏付ける必要がある。 平均的酪農経営体においては牛のウェアラブル端末を駆使した飼養管理システムの機能と役割も重要である。この点についても昨年から継続しているが、具体的成果を指標として示す。疾病事故発生割合が高い農家がアニマルウェルフェアの面でも優れていると言えるが、そうした場合酪農経営体では家畜死廃事故共済を中止し、病傷事故共済のみに加入することが多い。この点についても明らかにする。 韓国における家畜保険の実際と現在モデル事業的に実施されている病傷保険についても追跡調査を継続する。特に今年度は、韓国農村経済研究所からの依頼で、病傷事故保険制度の制度設計に対して、わが国家畜共済制度の知見を生かし、協力することとしている。これまでモデル的に実施されている制度のもので、韓国家畜病傷事故死廃事故がそのように発生しているのかを調査し、合わせて酪農経営、養豚経営が病傷保険、死廃保険にどのように名乳しているのかを調査し、その分析結果をもって家畜病傷保険制度設計へ貢献する。これらの成果は科研のメンバーによって、農業経営学会、農業経済学会等で個別報告として公表し、コメント等を得た後論文として投稿する。
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