本研究の目的は,日中両国で多様な展開をみせる農業経営体の経営成果や持続的発展の可能性をマイクロ・データに基づいて,比較・評価することにある。これまで農業経営体に対する農業経済学者の関心は,おもに家族経営に向けられていたが,少なくとも日本・中国に関していえば,新たな経営体の存在を無視できない。両国における農業経営の現状を理解し,将来の担い手像を探ることが,本研究のライトモチーフである。 本年度は,中国甘粛省蘭州市周辺の村(村民委員会)から独自に収集した農業経営に関するデータを用いて,合作社が提供するサービスがBC(生物・化学)およびM(機械)過程の技術効率性に及ぼす影響を明らかにした。また,農地の効率的な利用という観点から,農地貸借市場,貸借の取引コスト,離農選択,耕作放棄地の発生といったテーマについて,シミュレーション分析を行った。 分析の結果は,以下のようにまとめられる。(1)合作社への加入率が高い村ほど,BC過程の技術効率性は高いが,加入率はM過程の技術効率性とは無関係であった。(2)農地貸借率はM過程の技術効率性の改善に寄与しているが,BC過程とは無関係であった。また,農業機械サービスの提供,合作社の垂直統合も同様に,M過程における技術効率性の改善に寄与している。(3)合作社が今後,垂直統合という形で農業に参入し,事業を拡大していくためには,BCとM過程の効率性に及ぼす相反的な効果を解消する必要がある。 (4)本来,貸借市場は地代の調整によって需給均衡を回復するが,一旦,地代が非正となり,その状態から離農が進行すると,追加的な農地需要が生まれない限り,耕作放棄地の発生と農業の縮小を止めることができない。このような状況においても,個々の生産者の規模拡大は進行するが,市場メカニズムが耕作放棄地の発生を防ぐことができなければ,農地の利用効率は必然的に低下する。
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