研究課題/領域番号 |
21H02303
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
遠藤 明 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (70450278)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 積雪寒冷地 / 樹園地 / 窒素循環 / 土壌管理 / 土壌水質分析 |
研究実績の概要 |
本研究は①消雪が約1ヶ月早まることによる発芽時期・樹体の養分吸収開始時期の早期化および②局地的集中豪雨の多発といった、地球温暖化の進行により容易に起こり得る、①と②の2つの事象が積雪寒冷地のリンゴ園地の物質循環に対してどのような影響を及ぼすのかを解明する。そして、積雪寒冷地における近未来のリンゴ栽培において、生産面と環境面の双方の観点から推奨できる土壌管理技術は如何にあるべきなのか?という学術的「問い」に対して、農地環境工学の視点から最適解を総合的に導くことで、当該専門分野の学術研究を飛躍的に発展させるとともに、本研究成果をリンゴ生産環境の改善・技術分野に還元することを目標にしている。当該年度は3年間の研究期間の2年目であり、調査対象樹園地における土壌水分、土壌バルク電気伝導度、地温を連続的に観測しつつ土壌間隙水質のモニタリングを実施してきた。特に、当該年度においては、8月上~中旬にかけて、調査対象地域に線状降水帯が発生し記録的な大雨を観測した。このため上記②の環境条件を数値解析上の境界条件として適用できた。さらに、透水性が著しく高く保水性が極めて小さい礫質褐色森林土と、透水性と保水性が高い淡色黒ボク土のリンゴ園地において、少雨乾燥年と融雪浸透時期の土壌水分貯留および損失の程度を定量化した。体積含水率のモニタリング結果をもとに総土壌水分量の累積変化(ΣΔTSM)を計算し、淡色黒ボク土のリンゴ園地におけるΣΔTSMが周期性を持って毎年増加する傾向にあるものの、その変動は、褐色森林土のリンゴ園地の変動と比較して小さいことが示唆された。これらの結果は、リンゴ樹根が栄養素を吸収し始める融雪時期と少雨時における干ばつ時期との間のリンゴ園地の施肥管理に大きな影響を与え、特に、早春の土壌水に十分な養分が残っていれば、過剰な施肥による周辺環境への悪影響を軽減できることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年、地球温暖化の急速な進行にともなって、局地的集中豪雨の多発(溶脱の顕著化)と積雪量の減少と消雪の早期化(発芽・樹体養分吸収開始の早期化)が予想されている。このことを受け、積雪寒冷地である青森県津軽地域のリンゴ園地(暗渠排水設備なし)において、(a)生産者がこれまでどおりの圃場管理を行う対象区、(b) 緩効性肥料施肥試験区の2試験区を設けた。また、リンゴ栽培試験区の土壌水分、土壌バルク電気伝導度、地温、降水量の連続観測(遠藤,2021a)を継続している。さらに、この土壌環境観測に加えて、2~4週間に1回の頻度でリンゴ園地の土壌間隙水を任意の深度から採取・水質分析(遠藤,2021b)することで土壌水質環境の形成過程を把握している。なお、調査対象リンゴ園は3カ所にありそれらの土壌型は、礫質褐色森林土、淡色黒ボク土、中粗粒灰色低地土(灰褐系)である。2年目の研究期間では、礫質褐色森林土および淡色黒ボク土のリンゴ園地を対象に、少雨乾燥年と融雪浸透時期の土壌水分貯留および損失の程度を定量化して淡色黒ボク土のリンゴ園地における総土壌水分量の累積変化(ΣΔTSM)を把握した結果、褐色森林土のリンゴ園地の変動と比較して小さいことを明らかにした。このような冬季の非生育期を含めたリンゴ園地の土壌管理技術の発展に寄与する学術論文がComputers and Electronics in Agricultureに掲載(Endo, 2022)され、リンゴ樹根が栄養素を吸収し始める融雪時期と少雨時における干ばつ時期との間のリンゴ園地の施肥管理に大きな影響を与えることを示唆した。しかし、当年度実施予定であったリンゴ園土壌中の無機態窒素の動態に関する数理モデルの改善および解析を完了するに至らなかったことを受け、自己点検による評価を1段階落として「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間2年目終了時点において、研究計画の変更・研究を遂行上の問題点はない。したがって、最終年度の研究期間3年目についても、地道な土壌環境観測、土壌水分収支の解析、リンゴ樹の成育期間と休眠期間(冬期)における土壌水の採取と水質分析の継続を基軸として、調査対象リンゴ園地における土壌水分の動態や無機態窒素の土壌中での残存・溶脱特性を把握することで、積雪寒冷地のリンゴ園地の環境に与える複雑なインパクトを解明していく。そのためには、3年間の研究期間(2021~2023年)におけるリンゴ園土壌中の無機態窒素の動態に関して、Endo et al.(2018)が示した数理モデルを用いて解析するための数理モデルを改善することに加えて、豪雨および融雪が予想される前後で確実に試料採取すること土壌水質を抜かりなく観測していく。そして、論文を執筆し積極的に投稿していくことで、最終的には、今後予想される地球規模の環境変動に対応した持続可能な果樹生産活動を確実に推進するための新たな土壌管理技術を提案する。
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