本研究では、近未来の積雪寒冷地でのリンゴ生産において「生産面と環境面の双方の観点から推奨できる土壌管理技術は如何にあるべきか?」という学術的な「問い」に対して、農地環境工学の視点から総合的に最適解を導出する。具体的には、2021年4月~2024年3月の3年間にわたり、積雪寒冷地の青森県内の各土壌統群のリンゴ園地を対象に、施用する肥料の種類と施肥時期を変えた連用試験区を設定し、土壌水分・土壌EC・地温を連続的に観測しつつ、生育期間・休眠期間を問わず通年でリンゴ園土壌間隙水の採取と成分分析を行った。最終年度においても引き続き調査対象リンゴ園地における土壌水分の動態や無機態窒素の土壌中での残存・溶脱特性を把握することで、積雪寒冷地のリンゴ園地の環境に与える複雑なインパクトの解明に努めた。具体的には、(a)生産者が従来どおりの圃場管理を行う対照条件(春施肥条件)、(b) 岩手県や長野県などで適用している秋肥条件において、局地的集中豪雨に相当する大雨時および3月上旬の融雪時の2つの期間における溶脱現象に着目した。特に、2023年度における青森県内の研究調査地域は冬季の少雪の影響を強く受け、秋施肥に起因する肥料成分が融雪時期に一挙に溶脱せず、翌春の4月に土壌中の硝酸態窒素濃度が最大に至る傾向にあった。当研究調査地域における施肥時期は、消雪後できるだけ早く、また、遅くとも4月20日頃までに行う早春の時期が推奨されているが、降雪量が少ない当該調査年度においては、秋施肥による土壌中の硝酸態窒素が翌春を過ぎても過度に溶脱せず保持されたことから、鉛直方向の窒素濃度分布に限定すると春施肥と同等の効果が得られると判断した。このため、今後も引き続き当該調査地において定期観測を継続し、鉛直方向の窒素濃度分布の経過を把握することが肝要である。
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