研究課題/領域番号 |
21H02305
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
濱 武英 京都大学, 農学研究科, 准教授 (30512008)
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研究分担者 |
中村 公人 京都大学, 農学研究科, 教授 (30293921)
川越 保徳 熊本大学, くまもと水循環・減災研究教育センター, 教授 (00291211)
伊藤 紘晃 熊本大学, くまもと水循環・減災研究教育センター, 助教 (80637182)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ヒ素 / 浸透過程 / 非平衡吸着 / 灰色低地土壌 / 黒ボク土壌 |
研究実績の概要 |
2018年4月に生じた宮崎県硫黄山噴火による農業用水のヒ素汚染問題は,農地における作物汚染リスク管理の重要性を示唆した。しかし現状では,栽培期間中の汚染状況の把握や営農・水管理の修正のあり方に関する有効な研究知見はほとんどない。そこで本研究は,稲のヒ素吸収を抑制するために最適な現地観測と水管理(湛水深の調整)のあり方を探る。今年度,まず土壌カラム試験により,土中のヒ素移動を明らかにする。日本の代表的な土壌である灰色低地土壌(滋賀県琵琶湖北東部沿岸の水田土壌)および黒ボク土壌(宮崎県都城市九州沖縄農業センター試験圃場の畑地土壌)を用いてヒ素の吸着バッチ試験を行った。黒ボク土壌は灰色低地土壌よりも10倍近いヒ素吸着能力を示した。これは,黒ボク土壌がヒ素吸着に寄与するアルミニウムや鉄を多く含むためである。また,両土壌はヒ素吸着のpH依存性が異なった。灰色低地土壌は,pH3付近でヒ素吸着量が最大となり,pHに対する吸着の変化は放物線状であった。一方,黒ボク土壌では,吸着量変化はpH4をピークになだらかな放物線となった。また,ヒ素とリンの競合吸着実験を行い,土壌に吸着されたヒ素はリン添加によりほとんどが溶出することを確認した。土壌中のヒ素の可溶性や生物利用可能性を評価するために様々な化学形態分画法を検討した。さらに,土壌中の鉛直移動を評価するためカラム通水試験を実施し,土壌浸透過程における物質動態を再現する数値モデルを作成した。黒ボク土壌のように団粒構造が発達して浸透速度が大きい場合には平衡吸着を仮定してできないことが確認され,化学的および物理的非平衡を考慮することで数値モデルによる再現性を向上させることができた。これらの知見の一部は,学会発表で公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画当初は,栽培試験を行い,作物によるヒ素の吸収や土壌中のヒ素の移動を支配する微生物の同定を行う予定であったが,コロナ禍の影響により,研究分担者とそれらの共同実験が十分に行うことができなった。そこで,取り組む課題の順序を変更し,土壌におけるヒ素動態を物理・化学的に評価することを優先した。実験室において,ヒ素の化学形態分画法やヒ素・リンの競合吸着試験法を確立した。ただし,ヒ素とリンは土壌に対する化学反応性が類似するが,両者が存在する場合にそれらの化学形態画分を同時に評価する方法は確立されていないため,化学形態分画法の検討に時間を要した。ヒ素の鉛直移動を評価するためのカラム通水試験および数値モデルによる再現は,これまでの研究で確立した方法を用いたので,順調に行うことができた。現在は,ヒ素とリンが同時に存在する条件において,両者の土壌中における移動の試験を行っている。また,次年度に向けて,圃場スケールの物質移動試験を行うため,国・県の農業試験場や農業高校に協力を依頼し,試験圃場の選定を行った。
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今後の研究の推進方策 |
ヒ素動態における土壌微生物の群集としての機能を見出すため,土壌カラム試験を行う。一定濃度のヒ素溶液を連続投入し,中間水,流出水の化学分析により土壌移動中の濃度変化や形態変化を把握する。試験後に土壌の微生物の同定と金属類の化学分析を行う。また,ガラス温室内にて,ワグネルポットと人工の栽培区画(2m×2m)で水稲栽培を行い,pHやEhなどの水質センサーを多点設置して,栽培期間における環境条件の鉛直・水平分布および時間変化を計測する。試験では,水稲生育を阻害しない中程度のヒ素汚染を想定し,ヒ素濃度が0.01mg/L程度の灌漑水を供給する。ポット,区画は複数用意し,0 cm(表層湛水)~20 cm(深水)で湛水深を変えて試験を行う。試験期間中,土壌水や表層水を定期的に採取し,水質(ヒ素等の金属類濃度,溶存イオン濃度,溶存有機物濃度など)を計測する。また,栽培期間中に定期的に土壌を採取し,今回確立した化学形態分画法によって土中の金属類を化学的特徴ごとに定量し,移動性,生物利用可能性の変化を把握する。さらに,試験圃場に水文気象や土壌環境を計測する機器類を設置し,栽培期間中の圃場環境の連続モニタリングと定期的な水質や土壌中の物質計測を行う。
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