研究課題
本研究の目的は,稲のヒ素吸収を抑制するために最適な現地観測と水管理のあり方を探ることである。日本の代表的な土壌である灰色低地土壌および黒ボク土壌を用いてバッチ吸着実験とカラム通水実験を実施した。特に,黒ボク土壌は高い吸着能力をもち,吸着が長期間にわたって生じる。長期間の吸着実験と固体NMR・X線回折の計測結果から,一般的な作物栽培環境である中性pH条件においては,ヒ素やリンの長期の吸着現象は主として粒子内拡散によって生じることを示した。また,粒子内拡散現象は土粒子の団粒径に依存するため,団粒径と吸着特性の関係を評価した。実験結果を基に土壌浸透過程におけるヒ素およびリンの動態を再現する数値モデルを開発した。そして,ヒ素(リン)が高濃度である場合には代替センサー(電気伝導度計・pH計)による計測と数値モデルによる予測によってヒ素(リン)の動態が把握できることを確認した。同族元素であるリンとヒ素は類似の化学的性質を有する。競合吸着実験を実施し,黒ボク土壌への吸着において,リンとヒ素の選択性がほとんどないことを明らかにした。これは,ヒ素に汚染された農地土壌ではリン施用によってヒ素の移動性・植物利用可能性が高くなることを示唆する。稲のヒ素汚染対策を考えたとき,生育初期においては湛水によって利用性の高い(リンとの交換性の高い)ヒ素の洗脱が有効であり,生育後期においては,粒子内拡散により供給されるヒ素の吸収を抑制するために,節水的な水管理によって水分移動の抑制と土壌の酸化的環境の維持が有効であることが示された。
令和5年度が最終年度であるため、記入しない。
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