研究課題/領域番号 |
21H02316
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
伊藤 博通 神戸大学, 農学研究科, 教授 (00258063)
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研究分担者 |
宇野 雄一 神戸大学, 農学研究科, 教授 (90304120)
黒木 信一郎 神戸大学, 農学研究科, 准教授 (00420505)
中島 周作 神戸大学, 農学研究科, 助教 (00896938)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | サフラン / 子球肥大 / トランスクリプトーム解析 / 非破壊計測 / スピーキングプラントアプローチ |
研究実績の概要 |
サフラン子球育成実験において光量が人工気象器最大の強光区とその8割となる弱光区、および光量を徐々に増やす昇光区の3試験区を設けた。子球育成実験で得られたサンプルを供試して葉および子球内のスクロース、グルコース、フルクトースの濃度をHPLCで測定した。また同じサンプルをトランスクリプトーム解析にも供試した。昨年度は供試しなかった子球育成期間の初期のサンプルも使用した。次のような成果を得た。 子球育成期間初期に子球内スクロース濃度は大きく変動した後に単調に減少することがわかった。トランスクリプトーム解析により、この変化は子球形成による細胞分化の過程で生じた結果であると考えられた。葉内のスクロース濃度およびグルコース濃度はその後単調減少していたが、フルクトース濃度は逆に増加していた。子球内のフルクトース濃度も同様に増加しており、これがデンプン生合成の抑制によるシンク強度の低下の原因であると考えられた。弱光区では葉内フルクトース濃度の増加が強光区よりも緩慢であった。このため光量低減により葉の老化を遅延させることができると考えられ、光量低減によるシンク強度調節の可能性が示唆された。 近赤外線分光法により子球育成期中の子球内単糖および二糖の経日変化を非破壊計測し、その結果を基に子球のシンク強度を数値化する研究も同時並行で実施した。子球の近赤外スペクトル測定には530 nmから2500 nmまでの波長を使用した。積算時間も細かく変更してその影響を解析した。その結果、実用可能な検量線が得られた。この検量線から得られたスクロース、グルコース、フルクトースの濃度値を使用し、かつ新たにシンク強度計算式を提案した。昨年の提案式に比べて葉の老化開始前にシンク強度のピークが確実に検出されることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度では昇温が、令和4年度では光量が子球肥大に与える影響について解析した。子球育成期間中の子球と葉のスクロース、グルコースおよびフルクトース濃度の経時変化をHPLCにより測定し、かつ子球重量や葉の枯れ割合を測定した。その結果を基に糖の葉からの転流や子球のシンク強度の変化を細かく解析し、子球シンク強度の変化と子球重量や葉の状態の関係について調べた。その結果、子球のシンク強度の変動と葉の老化は密接に連動していることが判明し、その原因についてトランスクリプトーム解析により明らかにした。これらの解析結果から子球内の単糖や二糖の測定値によりシンク強度を表す指標を得ることができることも判明した。また、近赤外線分光法による子球内糖濃度の非破壊計測法もほぼ確立することができた。この手法により子球内糖濃度およびシンク強度推定値をリアルタイムで測定可能となった。 以上の結果、子球肥大の促進や遅延のメカニズムの解明に大きく前進し、かつ子球肥大の原動力であるシンク強度の非破壊測定法も開発できた。最終年である令和5年度で実施予定のシンク強度推定値に基づく環境制御を実践する準備ができあがった。
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今後の研究の推進方策 |
人工気象器2台で子球肥大実験を行い、一方を低温一定区(標準区)、他方を 光・気温変更区とする。光強度と気温以外の環境条件は両試験区で同一とする。光・気温変更区では、シンク強度指標値の非破壊計測値がピークになる時点で気温を増加し、さらにシンク強度の向上を目指すが、逆にシンク強度が低下した場合は気温を元に戻し、かつ光量を低減してシンク強度の維持を試みる。環境設定値を変更する前後に子球と葉のサンプルを採取し、糖濃度測定とトランスクリプトーム解析に供試する。糖濃度は所有のHPLCにより測定する。子球育成期間内に両試験区の子球と葉のサンプルを合計12サンプル程度採取し、外部委託でトランスクリプトーム解析に供試する予定である。これらの測定結果から光強度と気温の変更が子球肥大にどのように影響したのかを解析する。 収穫子球から各試験区で16球茎ずつを選抜して開花誘導実験で開花させ、開花数、柱頭乾物重、柱頭内クロシン濃度を測定する。子球肥大期の栽培環境がクロシン生産に与える影響を解析する。 上記の破壊測定に供試する球茎については近赤外スペクトルも測定し、測定データの蓄積により糖濃度非破壊測定の検量線精度の向上およびシンク強度指標値の妥当性の向上を試みる。 最終的にサフラン子球肥大期間の短縮と子球重量増大を実現する。これにより栽培植物の状態を計測し、その結果を基に環境制御を実施するスピーキングプラントアプローチによる生産効率の大幅な向上を実証する。
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