研究課題/領域番号 |
21H02328
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
矢野 勝也 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (00283424)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 高CO2 / 水利用効率 / 窒素 / リン / カリウム / バイオマス |
研究実績の概要 |
カリウムとリン供給量を変化させた条件下で、異なるCO2濃度におけるジャガイモの水分経済(バイオマス=水消費量×水利用効率)を解析した。バイオマス、水消費量,水利用効率に対して,カリウム供給とリン供給の間に有意な相互作用が認められたが、CO2供給とカリウム供給の間には有意な相互作用は認められなかった。カリウムの供給は塊茎の形成を促進することにより、高CO2条件下でのバイオマス蓄積を顕著に増加させることができた。バイオマスの最大値は高CO2下で約 1.3 倍に増加したが、CO2の効果はカリウム・リン供給量に依存した。さらに、水利用効率は高CO2のみならずカリウムとリン供給量に応じて増加した。バイオマスおよび水利用効率に対するCO2施肥効果は、カリウム・リン栄養の両方に依存していると結論づけた。 供与する窒素形態(硝酸・尿素)を変化させて、コムギ・イネ・ジャガイモ(C3光合成)およびギニアグラス・アマランサス(C4光合成)で異なるCO2濃度における水分経済を解析した。高CO2環境はアマランサス以外の植物種で窒素形態に依存することなく、相対成長速度およびバイオマス生産能を有意に増加させた。イネを除くすべての植物種でCO2濃度の上昇が水消費量を抑制した。この結果、いずれの植物種でも高CO2環境下で水利用効率が有意に向上したが、アマランサス以外の植物種では窒素形態による有意な差異は認められなかった。水消費量当たりの窒素獲得量を調査した結果、窒素形態に関わらずいずれの植物種においても高CO2環境下で上昇し、蒸散量の低下が必ずしも窒素獲得能の低下をもたらすわけではないことが判明した。結論として、高CO2環境が誘発する植物の窒素欠乏の原因が、硝酸同化の抑制や蒸散量低下に伴う窒素獲得能の低下によるものではなく、成長速度の増加に伴う窒素濃度の低下に起因するものであることを支持した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通り順調に進捗している。それに加えて、現在まで議論が続いてきた、CO2濃度の上昇が植物の窒素欠乏を誘発するかどうか、もし誘発するならばその原因は何かという点を明らかにし、議論を決着させるような研究成果を発表できたことで、当初の計画以上に進展したと評価している。 従来、1)高CO2環境が植物体内での硝酸還元能を低下させる、2)高CO2環境が気孔を閉鎖させて蒸散量を抑制する結果、蒸散を駆動力とした硝酸イオン獲得能を低下させる、3)高CO2環境で上昇した光合成速度に窒素獲得速度が追いつかず、結果的に体内窒素濃度能が低下する、の3つの仮説から高CO2誘導性窒素欠乏が説明されてきた。これに対して、本研究により、1)の仮説はイネ以外の植物種で確認できなかったこと、イネについても硝酸還元能の低下はわずかであり、成長速度を低下させるものではないことを明らかにした。2)については、高CO2環境下で気孔が閉鎖する結果蒸散量が抑制されることは事実であるが、高CO2環境下では蒸散量当たりの窒素獲得能がむしろ向上する結果、必ずしも蒸散量低下が窒素獲得能を低下させるわけではないことを初めて確認した。そして、窒素レベルに対する成長速度の飽和応答の解析から、CO2濃度の上昇で成長速度が変化したときにはより多くの窒素を要求するが、成長速度が変化しない場合には窒素要求量も変化しないことを実証し、3)が主因であることを明らかにできた。
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今後の研究の推進方策 |
計画通り研究は順調に進捗しているため、本年度も当初の計画通り実施する予定である。それに加えて、高CO2環境が植物の老化を促進するような現象を確認したので、栄養状態の制御で老化を緩和させることの可能性も追求する予定である。進捗状況に応じて、光合成に寄与しない夜間の蒸散がCO2環境に応じて変動するのかについても検証する予定である。これにより、植物の水分経済(バイオマス=水消費量×水利用効率)において、バイオマス生産を低下させない水利用効率の向上の新しい方向性を探索したい。
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