研究課題/領域番号 |
21H02362
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
大澤 健司 宮崎大学, 農学部, 教授 (90302059)
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研究分担者 |
佐々木 羊介 明治大学, 農学部, 専任准教授 (60704674)
北原 豪 宮崎大学, 農学部, 准教授 (90523415)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 牛 / 子宮頸管熟化 / マクロファージ / サイトカイン / 長期在胎 / 難産 |
研究実績の概要 |
牛の子宮頸管熟化機構の一端を明らかにすることを目的として、妊娠後期から胎子娩出までの頸管組織におけるマクロファージと、頸管組織および頸管粘液中の各種サイトカイン動態を調べるとともに、長期在胎および難産牛における頸管粘液中サイトカイン濃度を測定して異常分娩との関連を検討した。 試験1:黒毛和種経産牛の妊娠200~260日まで30日毎、および274日以降7日毎に子宮頸管の組織と粘液を採取した。3種の抗体(抗Iba-1、抗iNOS、抗CD163抗体)を用いて採取組織標本を多重蛍光免疫染色し、マクロファージ浸潤率と上記抗体の発現を解析した。頸管粘液中サイトカイン濃度を測定し、頸管組織および粘液中インターロイキン(IL)-1α、1β、6、8、10およびTNFαのmRNA発現を解析した。試験2では長期在胎(LT)群および難産(DYS)群より頸管粘液を採取、サイトカイン濃度を測定した。 試験1:頸管組織においてマクロファージが 6週間前以降に観察され、Iba-1とiNOSの発現部位に強い相関を認めた。また、胎子娩出3週間前にIL-6 mRNAの増加がみられた。子宮頸管粘液では胎子娩出14~12週間前と比較して、3~0週間前のIL-1α、IL-1β、IL-8およびTNFα濃度が増加した。さらに、IL-8 mRNAが胎子娩出3~2週間前と娩出週で増加した。試験2:LT群とDYS群はCON群よりもIL-8とTNF-α濃度が低かった。また,子宮頸管開大不全個体では4種のサイトカイン濃度がDYS群中最低値であった。 以上より、牛の子宮頸管組織中に浸潤するM1マクロファージがIL-6を産生することで頸管熟化が開始し、頸管粘液中のIL-1α、IL-1β、IL-8およびTNFα濃度が増加すること、および頸管粘液中サイトカイン動態が長期在胎や難産、頸管熟化不全の診断の一助となる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
正常分娩個体における子宮頸管組織および子宮頸管粘液サンプルの解析は順調に推移している。供試頭数サイズについても予定通り進行している。異常分娩個体からのサンプリングについても宮崎県内の臨床獣医師の全面的な協力が得られていることから、長期在胎や難産個体の頭数は予定ないし予定以上に集まる状況ではある。但し、胎子娩出直前直後の材料については今後さらに多くのサンプル数を必要とすることから、分娩徴候の観察により注力するとともに分娩誘起処置後における頻回の採材も必要である。 サンプルの解析については、備品として導入した測定機器も順調に稼働している。なお、サンプル処理の過程で、より多数の検体を同時にホモジナイズする必要が生じたため、昨年度後半に機器を導入したが、これによって効率的かつ的確なサンプル処理が実現している。
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今後の研究の推進方策 |
牛における子宮頸管熟化について、マクロファージと炎症性サイトカインの関連性を観察し、これを長期在胎および難産を呈した群との比較を行ったのは本研究が初めてである。本研究では、牛の子宮頸管熟化は頸管組織においてM1マクロファージがIL-6を産生することで開始され、粘液とともに子宮頸管腔に移動した炎症細胞が頸管粘液中IL-8濃度を増加させ、これが子宮頸管熟化に強く寄与していることが示唆された。臨床現場において子宮頸管粘液中サイトカイン、特にIL-8が長期在胎および難産の指標のバイオマーカー候補として有力であるが、他のサイトサインやマクロファージ動態も含めて供試頭数を増やす予定である。また、胎子娩出により近いタイミングおよび胎子娩出後数時間におけるサンプルを収集するべく、分娩徴候が現れた後からの頻回の材料採取を予定している。 今後、長期在胎や難産、頸管熟化不全個体からのサンプルを収集、解析を実施することで、生産現場における分娩管理、特に臨床現場における難産個体の予測と分娩誘起処置の適切なタイミングの見極めができる診療ガイドラインの策定につながることが期待できる。
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