研究課題/領域番号 |
21H02374
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研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
田中 良和 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 教授 (50291159)
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研究分担者 |
落合 和彦 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 准教授 (30550488)
小熊 圭祐 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (50436804)
佐々木 崇 札幌医科大学, 医学部, 講師 (50723897)
古谷 哲也 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (60647676)
手嶋 隆洋 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 准教授 (80610708)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ウイルス複製 / 猫伝染性腹膜炎 / コロナウイルス / カルシウム拮抗薬 / 抗ウイルス薬 |
研究実績の概要 |
本年度は以下の実験を実施した。
〔1〕Ca拮抗薬によるウイルス複製阻害作用がウイルス増殖のどのステップの阻害によるものかを明らかにする(ウイルス吸着・侵入阻害、細胞内ウイルス遺伝子複製阻害,出芽阻害など)。この目的のために各実験において共焦点レーザー顕微鏡を用いて細胞内小器官ごとにCa拮抗薬によるCa量の変化を定量化・モニターリングしつつ以下の実験を行った。 Ca拮抗薬存在下で細胞にFIPVを4℃で吸着させた。次いで細胞を固定し、免疫染色後、共焦点レーザー顕微鏡にて解析したところ、吸着を阻害するCa拮抗薬は認められなかった。また、エンドソームからのウイルス遺伝子の放出量(脱殻)を定量するために外被蛋白質にFIPVのスパイク-GFP融合型蛋白質をもち、ルシフェラーゼ遺伝子を発現するシュードタイプレンチウイルス粒子を作成した.S蛋白質のC末端をある程度欠失させることにより細胞融合能が増強されるというSARS-CoVやMERS-CoVでの実験結果をもとに、FIPVのS蛋白質のC末端から5アミノ酸ずつアミノ酸を欠失するように変異S遺伝子を発現するプラスミドの構築した。これらをレンチウイルスに組込み変異体を作成した。さらにfcwf-4細胞でのルシフェラーゼ活性を定量した結果、C末端から20アミノ酸を欠失させた変異体が最も効率が高かった。 〔2〕ウイルス出芽様式の変化を調べた。細胞内オルガネラ(小胞体,ゴルジ装置,ミトコンドリアなど)に対する特異抗体を用いてCa拮抗薬存在・非存在下でウイルス粒子の局在変化を共焦点レーザー顕微鏡で調べた。同時に初期エンドソームに発現するRab5や後期エンドソームに発現するRab7とウイルス蛋白質との共局在を解析した。しかしながら、共焦点レーザー顕微鏡解析ではオルガネラ内での蛋白間結合を明確に観察することは困難であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ渦の影響により、当初予定していた実験機器の入荷やプラスティック不足等の問題が生じ、実験に遅れが生じた。また、FIPVの各蛋白に対する特異抗体が販売されていないため、タグ付きの遺伝子を構築した上でウェスタンブロット解析や細胞での蛍光抗体法を行わざるをえなかった。こうした状況の中でCa拮抗薬のウイルス複製阻害における作用機序として、Ca拮抗薬がウイルスの細胞表面での受容体への阻害効果ではなく、エンドソーム内のウイルス脱殻に影響を及ぼすことが証明されたことは評価できる。 また、Ca拮抗薬がエンドソーム内の水素イオン濃度を変化させることも明らかにできた。この影響は、エンドソーム内のカテプシンの不活化に大きく関与することも予測できる。 これらの結果は、FIPVだけでなくヒトのコロナウイルス感染症であるSARS-CoV、MERS-CoV、SARS-CoV2 (COVID-19)でも同様に最近報告がある。このため、本研究は当初の目的通り、人や動物のコロナウイルス感染症に対する治療戦略を考える上で重要なものといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の実験結果から、Ca拮抗薬の影響は、ウイルス吸着時において認められなかったことから、当初の仮定通り、Ca拮抗薬によるFIPV複製の阻害効果はウイルス脱殻時に起因し、特にエンドソームに着目すべきである。この詳細なメカニズムを解明するためにCa拮抗薬以外で、エンドソームの水素イオン濃度に影響を及ぼす薬剤をスクリーニングし、それら薬剤にFIPV複製阻害作用があるか検証する必要性がある。さらにその阻害作用の解明をウイルス蛋白と細胞蛋白との相互関係から詳細に解析する必要性がある。 また、各細胞内のオルガネラ(細胞内小器官)におけるウイルス複製機構をカルシウムシグナル伝達経路阻害剤により解析し、キーとなる細胞内蛋白を同定することが重要である。
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