研究課題/領域番号 |
21H02376
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大野 円実 北海道大学, 人獣共通感染症国際共同研究所, 助教 (50794202)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | インフルエンザ / 宿主因子 / LOX-1 / 血液凝固異常 |
研究実績の概要 |
インフルエンザウイルスPR8株を用いた重症インフルエンザマウスモデルにおいて、感染3日目に血管及び肺でLectin-like oxidized LDL receptor-1 (LOX-1)遺伝子発現量が有意に上昇することを見出した。LOX-1は動脈硬化症における病的血液凝固の促進因子であることから、重症インフルエンザによる血液凝固異常においてもLOX-1が関与すると予想された。そこで、野生型マウスとLOX-1ノックアウト(KO)マウスを用いて感染実験を行ったところ、野生型マウスでは感染6日目においてプロトロンビン時間の延長、血中プロトロンビンフラグメント1+2の増加、肺血管内フィブリン析出が観察されたが、KOマウスではこれらの所見が見られなかった。さらに、COVID-19ハムスターモデルおいても肺や血管においてLOX-1の発現量上昇が見られたことから、LOX-1が多様なウイルス感染症において血液凝固異常を引き起こす可能性が示唆された。野生型マウスとKOマウスにPR8株を感染させ、血漿メタボローム解析を行ったところ、KOマウスでは梗塞ダメージマーカー(xanthine及びhypoxanthine濃度)、アミノ酸代謝異常マーカー(フェニルアラニン/チロシン比)、酸化ストレスマーカー(2-aminobutyric acid)の改善が見られた。 また、PR8株を重症及び非重症条件でマウスに感染させ、感染1、3、6日目に回収した血漿を用いてリピドーム解析を行い、重症インフルエンザに特徴的な脂質代謝変化パターンを明らかにした。重症条件に特徴的な変化として、sn-2位にアラキドン酸を含むホスホジエタノールアミンなどのリン脂質が感染3日目に血中で増加することがわかった。これらの結果は、脂質及びその過酸化代謝物がインフルエンザの重症化に関与している可能性を示唆するものである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画書に記載の進行計画では、2021年度は重症インフルエンザにおける①血液凝固パラメータの経時的解析、血液凝固異常に関わる宿主因子の同定、血液凝固異常とエネルギー代謝異常の関連性の検証を行う予定だったが、これらに加えて、同定した宿主因子の抑制による血液凝固異常の改善の検証についても行うことができたため。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度は、研究計画書に記載の進行計画に則って以下の通り研究を進める予定である。まず、重症インフルエンザマウスモデルにおいて、感染マウスに脂質代謝異常を改善する薬剤を投与し、体重減少、生残率、血液凝固異常が改善するか否かを検証する。また、野生型マウスとLOX-1ノックアウトマウス、溶媒対照と薬剤投与群で感染後の脂質プロファイルの比較を行う。 さらに、野生型マウスとLOX-1ノックアウトマウスにSARS-CoV-2マウス適合株を感染させ、体重減少、生残率、血液凝固異常を比較することで、LOX-1がCOVID-19においても病原性発現及び症状増悪に関与しているか否かを検証する。
|