2021年度から継続の2022年度の研究において、宿主因子Lectin-like oxidized LDL receptor-1 (LOX-1)が重症インフルエンザによる血液凝固異常を引き起こすことを明らかにした。 2023年度の研究では、インフルエンザウイルスA/Puerto Rico/8/34 (H1N1)株感染による重症及び非重症インフルエンザに対する野生型マウスとLOX-1ノックアウトマウスの生体応答を詳細に解析した。ウイルス抗原を標的にした免疫染色の結果から、ウイルス増殖及び排除においてこれらのマウスの間に明確な違いはないことが示唆された。一方、急性重症モデルにおいて、感染後の肺へ浸潤した顆粒球の生残及びナチュラルキラー細胞の浸潤の度合いに顕著な違いがあることがわかった。また、非重症長期観察モデルにおいて、どちらのマウスも感染9日後をピークとする23%程度の体重減少を示したが、LOX-1ノックアウトマウスでは感染14日以降の体重回復の鈍化が見られた。さらに感染7、14、28日後のどの観察ポイントにおいてもLOX-1ノックアウトマウス肺で、より高度なマクロファージの浸潤が観察され、28日後においては泡沫細胞の集簇も確認された。これらの結果から、LOX-1がインフルエンザに対する免疫細胞の応答を広範に制御し、炎症の収束や損傷組織の修復に影響を及ぼしていることが示唆された。 また、フェロトーシス阻害剤を用いて酸化リン脂質が重症インフルエンザの病原性にどのように関わるかを検討した結果、フェロトーシスはプログラム細胞死や貪食の促進を介して感染細胞の排除に貢献している可能性が示唆された。 LOX-1もフェロトーシスも脂質クオリティの制御に関わる宿主機能であり、これらがウイルス感染症の病態に関与していることが本研究によって示された。
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