研究課題
本年度は2つの課題に対し以下に記すアプローチを行った。①雄性生殖細胞合胞体形成におけるセミノリピドの役割解明セミノリピド欠損精巣で出現する多核巨細胞は生殖細胞合胞体の形成異常によるものと推察される。初年度においてこの現象が生殖細胞分化のどの段階で起こるかを検証した結果、精母細胞のZygotene-mid Pachytene期にこれが出現することを突き止めた。本年度は細胞間架橋がどのステージで変容をきたすかを解析した。細胞間架橋の局在を蛍光免疫染色により解析したところ、セミノリピド欠損マウスでは初期精母細胞ですでに多核化を始めておりこの時細胞間架橋構成分子TEX14の局在が変容し架橋とは異なる位置の細胞表面に局在していることを見出した。このことはセミノリピドが細胞間架橋構成分子の局在制御に加担する可能性を示唆している。②血液精巣関門制御におけるセミノリピドの役割解明本年度は、電子顕微鏡観察による血液精巣関門の観察を行なった。結果、セミノリピド欠損精巣でも機能的な密着結合の存在を示す『発達したアクチン繊維に裏打ちされた細胞膜のキッシング構造』が確認された。このことは、セミノリピド非存在下でも密着結合を構築することができることを示している。そこで次に、密着結合の連続性の有無をホールマウント免疫染色で観察したところ、セミノリピド欠損精巣でも連続した密着結合帯の形成が確認された。しかしこの時、結合装置を裏打ちするアクチン繊維の束にほつれのようなものが見られた。
3: やや遅れている
本年度遂行予定の計画をおおむねこなすことができた。しかし、予定していたセルトリ細胞RNAseq実験について、使用する動物を当初予定ものよりも使いやすいものに変更する作業を行なったため、遺伝子組み換え動物の交配にとどまっており、実際の実験実施・解析は来年度に持ち越しとなった。このことから評価区分を上記の通りとした。
①雄性生殖細胞合胞体形成におけるセミノリピドの役割解明:本年度導入し繁殖体制を構築した複数の遺伝子改変マウスとセミノリピド欠損マウスを比較解析し、多核巨細胞形成における各遺伝子の役割とその主従関係を明らかにする。②血液精巣関門制御におけるセミノリピドの役割解明:野生型マウス・セミノリピド欠損マウスの双方よりセルトリ細胞を純化し網羅的遺伝子発現解析を行う。ここから血液精巣関門の機能発現に関わる遺伝子群を抽出し、ミュータントマウスの作出によりその機能を解析する。また、セミノリピド欠損がセルトリ細胞の極性を変容させることから、細胞極性関連遺伝子のセルトリ細胞特異的欠損マウスを作出し、血液精巣関門の構造・機能変容の有無を解析する。
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