体外受精に代表される生殖技術の開発により,実験動物や家畜の受精卵(胚)を効率的に体外で作製することが可能となった.それらの技術の一部はヒトの生殖医療においても用いられている.しかし,体外で生産された胚の発生能は,体内由来のものに比べて低い.その理由として卵の体外成熟および受精技術が,体内での現象を再現できていないことが考えられる.本研究では,卵の成熟や受精に重要な役割をもつと考えられる亜鉛シグナルに着目し,亜鉛イオンの輸送を制御する亜鉛トランスポーター遺伝子改変マウスを用いることで『亜鉛イオン依存的な哺乳類卵成熟・受精メカニズムを分子レベルで明らかにする』ことである. 本年度は,はじめに亜鉛イオンの蛍光指示薬であるFluozin-3AMを用いて卵および胚の各ステージの胚を染色した.その結果,体外受精後の前核期胚(PN)で亜鉛イオン量は著しく減少していた.胚盤胞では亜鉛イオン量が急激に増加していた.次に異なる卵活性化法を用いて同様に実験を行った結果,シクロヘキシミド,SrCl2およびTPEN処理卵ではPNの亜鉛イオン量は減少したが,顕微授精由来のPNは,依然として高い亜鉛イオン量を示した.しかしいずれの活性化法を用いても胚盤胞では,亜鉛イオン量の急激な増加が認められた. 以上のことから,マウス卵子の成熟・受精・活性化・胚発生において,亜鉛イオン量がステージ依存的に変化することが明らかになった. 次に,亜鉛イオンの取り込みに関わる亜鉛トランスポーター(ZIP)遺伝子に着目した.初めにマウス卵子では全14種類のZIPのうち,Zip6およびZip10が高い発現量を示すことを確認した.以上のことから,卵および胚においてはZip6およびZip10遺伝子が重要な役割を持つ可能性が示唆された.
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