研究課題/領域番号 |
21H02387
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
金井 正美 東京医科歯科大学, 統合研究機構, 教授 (70321883)
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研究分担者 |
伊藤 日加瑠 香川大学, 医学部, 准教授 (50587392)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 胎盤 / NRK / 分娩遅延 |
研究実績の概要 |
1978年に世界初の試験管ベービーが誕生して45年、我が国の生殖補助医療(ART)の発展は目覚ましく、2018年には累計65万件の体外受精児が誕生している。その数は世界一であり、ARTで誕生した子供は同年には5万7000人を超え15人に一人の割合となった。一方、現代の社会問題である母体年齢の上昇に伴う胎児発育不全については、母体環境や胎盤の影響が考えられるが、その発症機構は多くが不明のままである。出産の高年齢化とART成功率の影響については、社会的に大きな問題となりつつある。胎盤形態は動物種によって大きく異なり、ヒトをはじめとした霊長類とマウスなど齧歯類は類似した進化系の血絨毛性胎盤を有し、母体血に接する栄養膜合胞体細胞はバリア機能と選択的物質交換に特化した形状を示す。我々がオリジナルに単離したNrk(NIK-related kinase)遺伝子のKOマウスは、胎盤肥大と分娩遅延を呈し、新生仔数が極端に少ない。本申請ではこのNrk KOマウスの表現系を手掛かりに、正常な妊娠から分娩発来シグナルについてのスイッチ機構の検討を計画をしている。すなわち、マウスとヒトの胎盤のNRK機能を比較検討することで、母体環境に焦点を当てた研究を実施している。現在までに、Nrk下位遺伝子について、Nrk KOとワイルドタイプの胎盤を用いたRNA seqにより、遺伝子プロファイリングを実施した。また、KO個体における母体血清を用いたELISAの結果から、本来なら分娩発来のために母体内のProgesteroneが急速に低下するものの、Nrk KO個体ではその低下が認められないことを見出し、抑制剤を用いた治療実験の実施を計画しており、今後、マウスとヒトの横断的検討を加えていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年までに、Nrk下位遺伝子について、1) Nrk KOとワイルドタイプの胎盤を用いたRNA seqにより、遺伝子プロファイリングを実施した。2) 妊娠末期妊娠17.5日齢と分娩直前の19.5日齢の、Nrk KOの母体血清内のProgesterone (P4), m Placental Lactogen (mPL)-1, 2をELISA法にて測定したところ、P4とmPL2は、本来なら分娩発来のために急速に低下するものの、Nrk KO個体ではその低下が認められないことが明らかとなった。3) 現在、P4を妊娠末期に投与することで、分娩遅延の治療が可能であるかどうかを検討中であり、治療介入の実験まで進行している。4) 今回のRNAseqデータは胎盤構成部位の迷路層から得たRNAを用いたが、mPL2は、主に海綿体層のグリコーゲン細胞から分泌されることが報告されている。そこで、mPL2の迷路層と海綿体層産生細胞の同定を実施し、迷路層の栄養膜細胞(巨細胞と合胞体細胞)におけるNRKタンパクの低下を組織上であるが確認した。以上から、当初の目的は概ね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
胎盤形態は動物種によって大きく異なるが、ヒトをはじめとした霊長類とマウスなど齧歯類は類似した進化系の血絨毛性胎盤を有し、母体血に接する栄養膜合胞体細胞はバリア機能と選択的物質交換に特化した形状を示す。そこで、マウス胎盤がヒト胎盤の疾患モデルとしてカウンターパートとなり得るかどうかを検討することとした。まずは、Nrk KOと野生型胎盤の迷路層のRNAseqによるDifferential 解析を実施したうち、母体胎児間のバリア機能と選択的物質交換に関与し、さらには胎児発育不全の原因となる可能性のある遺伝子を探索する。その遺伝子のうち、実際に栄養膜合胞体細胞で発現している遺伝子を絞り込み、早産症例について病理切片についてのスクリーニングを実施する。その際には、RNAスコープを用いた in situ hybridizationと抗体染色によるタンパク量の変化を可視化する。最終的には得られたデータを数値化することを目標とする。またマウスにおいては、P4は本来なら分娩発来を誘引するために、分娩直前には急速な低下が期待されるが、Nrk KO母体では野生型ほど低値を示さなかったため、その治療介入の一環として、P4投与により分娩遅延の回復が可能であるかどうか検討する実験計画を推進する。
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