これまでの培養細胞を用いた研究からCXCR4のN末端の2ヶ所のO型糖鎖の付加可能部位が,細胞遊走活性に重要であることを明らかにしたので,今年度はHSC のCXCR4遺伝子に変異を導入して,HSCのホーミングに与える影響を解析した。 1)レンチウイルスベクター(LV)を用いた変異CXCR4遺伝子のHSCへの導入 CXCR4の2ヶ所のO型糖鎖の付加可能部位のSerをAlaに変異させて,O型糖鎖が付加しない変異CXCR4遺伝子を発現するLVを作製した。CXCR4欠損マウスは出生時致死なので,胎仔肝臓からKIT陽性細胞(HSCを含む)を調整してこのLVを感染させた。導入した変異および野生型CXCR4遺伝子の発現をFACSで確認後,致死量のγ線を照射した野生型マウスに移植した。24時間後にレシピエントマウスから骨髄細胞を調整し,移植したHSCのホーミング活性を測定した。野生型CXCR4を導入したHSCはホーミング活性が有意に上昇したが,変異CXCR4を導入したHSCはベクターのみと同程度のホーミング活性しか示さなかった。 2)ゲノム編集によるCXCR4変異マウスの作製とホーミング活性の解析 骨髄のHSCのホーミングに与える影響を解析するために,ゲノム編集によりこの2ヶ所のO型糖鎖の付加可能部位に変異を導入したマウスを作製した。CXCR4欠損マウスは致死であったが,この変異マウスは正常に出生して成長した。この変異マウスのKIT陽性骨髄細胞を調整し,野生型のレシピエントマウスに移植したところ,野生型マウスのHSCに比べて,CXCR4変異マウスのHSCは有意にホーミング活性が低下していた。以上の2種類の実験よりこの2ヶ所のO型糖鎖は,胎仔肝臓由来および骨髄由来の両方のHSCの骨髄ホーミングに重要な役割を担っていることを明らかにすることができた。
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