研究課題
本課題では、研究代表者が発見したハエや魚類からヒトまで生物種間で広く保存される遺伝子の解析を通して、生殖メカニズムにおける遺伝子機能の普遍性と特異性を明らかにする目的で研究を進めている。今年度は、精子膜タンパク質SPACA4の解析を中心に行った(PNAS. 2021)。魚類では、このタンパク質はBouncerと呼ばれ、卵子膜上に局在して精子との異種間受精を制御するレセプターとしての役割を持つことを共同研究者らが明らかにしていた(Science. 2018)。このタンパク質のユニークな点は、進化の過程で発現場所が雌雄間を飛び越え、両生類以降は卵子ではなく精子に特異的に発現することが知られていた。そこで、このタンパク質の哺乳類での機能を明らかにするために、KOマウスを開発して解析を行った結果、KO精子は体外受精試験で受精率の有意な低下を示し、その原因は精子の透明帯通過にあることが明らかになった。SPACA4の精子での局在を調べたところ、先体反応後に限って精子頭部に露出されることから、先体反応後の精子しか透明帯を通過できない事とKOマウス精子の表現型が一致する。今後は、機能の普遍性を検証するために、異種のSPACA4遺伝子を導入した遺伝子組換えマウスを作出して、マウスSPACA4が欠失した状態で精子機能の補完を検討したい。また、並行して進めている生物種間で広く保存される別の遺伝子群の機能解析に関する論文が投稿段階までこぎ着けたので、順次進めて行きたい。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、魚類から哺乳類まで広く保存する遺伝子SPACA4の哺乳類での機能解析について報告することができた(PNAS. 2021)。その他の研究計画も想定の範囲内で進展していることから、概ね順調と評価した。
今年度報告した精子膜タンパク質SPACA4の生物種間での機能補完を検証するために、KOマウスに異種のSPACA4を発現させたトランスジェニックマウスの作出を計画している。研究開始当初から局在観察等に用いるために抗体を作製しているが、必ずしも良い反応性を示すとは限らないので、並行してタグや蛍光タンパク質を発現する遺伝子組換えマウスの開発も進めていきたい。また、別プロジェクトでは、動物だけでなく植物まで広く保存されている遺伝子群について哺乳類での機能解析を進めているので、次年度はこちらにも注力していきたい。
すべて 2021 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 備考 (3件)
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