研究課題
転写と共役したDNA修復機構 (transcription coupled repair: TCR)は、転写が活発に行われている領域に生じたDNA損傷を、優先的かつ効率良く修復するシステムであり、生体の恒常性維持に重要なメカニズムである。本研究では、DNA損傷箇所で停止したRNA合成酵素がユビキチン化修飾を受けてTCRを開始・制御する分子機構の詳細解明に取り組むとともに、TCRの破綻により発症するヒト疾患の病態を明らかにすることを目指している。これまでに特殊なChIPseq法を開発し、TCRの進行やDNA損傷誘発後のRNA合成酵素の挙動等をゲノムレベルで解析してきたが、より詳細にTCRの制御メカニズムを理解するため、種々のTCR因子でのChIPseq解析に取り組んだ。適用可能な抗体の探索と検証を実施し、複数種類の抗体が利用可能であることが判明した。これをもとに、紫外線誘発DNA損傷後の種々のTCR因子のChIPseqデータの取得を進めた。また、DNA損傷による転写阻害がもたらす遺伝子発現の撹乱に起因する生体影響を調査するため、樹立済みのTCR欠損モデルマウスを活用して各臓器・組織のRNAseq解析に取り組んだ。さらに、TCRの分子メカニズム解明に向けて、新たな手法での解析を取り入れるため、必要となる遺伝子編集細胞シリーズの作製を進めた。本解析には、複数の変異を組み合わせて持つ細胞を十数種類作製する必要があるため、継続して細胞樹立に取り組む。また、TCR機能の欠損が疑われており疾患原因未同定のヒト症例について解析を行ったところ、いずれも既知の遺伝子異常が疾患原因であることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
ChIPseq解析に使用可能な種々のTCR因子抗体を特定し、紫外線誘発DNA損傷後のChIPseqデータの取得を進めており、順調にデータを蓄積している。一連のデータ取得の後に、既存のデータも合わせて比較検討することで、ゲノムレベルでのTCRの評価がより詳細に行える様になると考えられ、順調に進展している。DNA損傷による転写阻害がもたらす遺伝子発現の撹乱に起因する生体影響の調査のため、TCR欠損モデルマウスの各臓器・組織のRNAseq解析に取り組み、着実にデータ取得を進めている。また、新たな解析法導入に向けた遺伝子編集細胞作製を実施し、いくつかの目的細胞は作製完了したほか、他の種類の遺伝子編集細胞についても、良好に作製が進んでいる。これらのことから、本研究は順調に進展していると考えられる。
ChIPseq解析に適用可能な複数のTCR因子抗体について、継続して紫外線誘発DNA損傷後のChIPseqデータの取得を進める。それぞれの抗体について、DNA損傷誘発後の時間経過ごとに調査を行うことで、修復の過程を追ってゆく。一連のデータ取得後、既存のデータと合わせて検討し、より詳細な評価を行う。これにより、TCRの反応制御と転写再開の時空間的な理解を深める。あわせて、より幅広い種類のDNA損傷の評価を実施するため、特殊なChIPseq法の改良に取り組む。また、TCR欠損モデルマウスの各臓器・組織のRNAseq解析を継続して行うことで、DNA損傷による転写阻害がもたらす遺伝子発現の撹乱に起因する生体影響を評価する。さらに、モデル細胞にて実施している特殊なChIPseq解析をモデルマウスの評価にも応用するため、各種実験条件の検討を進める。また、新たな解析法導入に向けて取り組んでいる遺伝子編集細胞シリーズの作製を推進するほか、TCR欠損が疑われるヒト症例の解析による新規TCR関連因子の探索も継続して行う。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件) 備考 (2件)
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