研究課題/領域番号 |
21H02408
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
尾瀬 農之 北海道大学, 先端生命科学研究院, 教授 (80380525)
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研究分担者 |
久米田 博之 北海道大学, 先端生命科学研究院, 学術専門職 (00399966)
杉田 征彦 京都大学, 医生物学研究所, 准教授 (00734469)
于 健 大阪大学, 蛋白質研究所, 特任准教授(常勤) (20587860)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | クライオ電顕 / NMR / 超遠心分析 |
研究実績の概要 |
狂犬病RVPC,麻疹MVV,各種STAT分子の構造解析に向けた最適なコンストラクトを探索した。従来から,7種存在するSTATファミリー分子は,特定のチロシン残基リン酸化により,相手のSH2ドメインとスワップにより二量体を形成し,このことが核への移行,標的遺伝子の発現に繋がると教科書等で解説されている。しかしながら,N末端ドメインは二量体化するため,チロシンリン酸化における多量体化と,N末端ドメンによる二量体化を併せて考える必要がある。一部の論文では,STAT分子の四量体化や多量体化に関する議論がおこなわれているが,構造生物学としては,1998年に構造解析されたSTAT1およびSTAT3分子コア領域がチロシンリン酸化による二量体化された立体構造がマイルストーンとなっており,N末端領域を含むさらなる四次構造立体構造などは進展が見られず,手つかずであった。我々は,狂犬病RVPCや麻疹MVVがヘテロを含む,上記四次構造に対して親和性を持つ実験データを得て,構造解析に取り組んできた。まず,STAT1は全長のコンストラクトを用いて,チロシンリン酸化により,四量体を形成させ,アポ型,DNA結合型,RVPC結合型をX線小角散乱法により解析し,それぞれのフォーム間にはコンフォメーション変化が見られないことを解明した。また,リン酸化STAT1四量体とM13 DNA複合体の立体構造を,クライオ電子顕微鏡により解析した。得られた構造やX線小角散乱法のデータを用い,かつ,蛍光偏光解消法によるRVPC-STAT1相互作用解析から,RVPCとSTAT1の結合モデルを組み立てることができた。このモデルは,これまでの蛋白質解析(NMR等)や,細胞を使った免疫逃避アッセイ(レポータージーンアッセイ等)および,ウイルスの宿主指向性をうまく説明している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
pYSTAT1 WTはSECの結果や, SEC-MALSの結果から四量体を形成していると考えられた。pYSTAT1のNTD同士の相互作用を失うpYSTAT1変異体では二量体を形成することが証明できた。今回作製した変異体F77A,L78A,F77A/L78Aの3つの変異体のうち,F77A/L78Aが最も二量体が多くみられたため,相互作用解析をF77A/L78Aを用いておこなう指針を作ることができた。 本研究で精製したNTD同士の相互作用を失うpYSTAT1変異体でも,pYSTAT1 WTと比べてHeparinへの結合が弱くなっている様子が見られ,NTDによりSTAT四量体を形成することで,DNAへの結合が変化することを直接観測することができた。 pYSTAT1 F77A/L78A変異体とRVP CTDとのFP測定による相互作用解析を行うと,WTのKD値が18 nMであったと比較し,F77A/L78A変異体ではKD値が150 nM結合が8倍近く弱くなっていたことなど,多くの新しい知見が得られ,複合体構造解析のサンプルを作る上で,大いに進展が見られた。また,最適化した電子顕微鏡測定用グリッド条件からpY-STAT1とDNA複合体のデータ測定をおこない,二量体および四量体の3次元マップを3.07オングストロームおよび3.84オングストロームで構築することができた。 得られた構造から,RVP CTDとの相互作用にpYSTAT1のNTD同士の相互作用も重要である理由を考察することができた。一方で,ゲルろ過クロマトグラフィー(SEC)による複合体形成実験により,pYSTAT1 F77A/L78AがRVP CTDと複合体を形成することを明らかにすることができたため,PVP CTDとの複合体構造解析も,3次元構築の段階まで進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
麻疹MVVに関しては,表面プラズモン共鳴,熱力学測定,ゲル濾過クロマトグラフィ,超遠心分析)により,相互作用解析を進め,STAT2との複合体構造解析を進める。特に,MVVのN末端に存在している長い立体構造非形成領域(230残基からなるIDR)の意義に関しては,完全に判明していない。我々のこれまでの研究からは,IDRが存在する場合と存在しない場合において,STAT2-IRF9間結合の競合関係が変化する。すなわち,IDRが存在する場合は,IRF9からSTAT2を奪えるが,IDRが無い場合は,IRF9からSTAT2を奪えないようである。細胞内で相互作用を直接評価するために,split luciferaseを用いる系を実行する。併せて,ヘテロSTATとDNAやウイルス蛋白質の性状を評価し,DNAをFluorescein修飾し蛍光偏光解消法(FA)により定量化する。特に比較したい親和性は,①GASと結合するpY-STAT1二量体と四量体,②ISRE・GAS・IRFそれぞれの配列に対するpY-STAT1二量体およびISGF3である。前者はホモ四量体が必要な現象の定量化,後者からはtype I IFNとtype IFN II経路のプロモーター選択性に対する情報が得られる。複合体の構造解析としては,pY-STAT1/2/IRF9(ISGF3)複合体が目標(DNA有無)であり,ISGF3がISRE配列を認識する構造基盤を明らかにする。RVPCとの相互作用解析としては,作製済みのpY-1/1, 1/3, 3/3二量体の他,四量体化しないpY-STAT1/2二量体を作製し,RVPCとの相互作用解析をおこなう。RVPCとの構造解析としては,①でpY-1/1や3/3と比較し,1/2, 1/3に選択性が認められれば,1/2-RVPCおよび1/3-RVPCを構造解析対象とする。
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