研究課題
三者複合体を形成し機能するABC輸送体をターゲットとする本研究課題では、主に二つの輸送系を取り扱う。共にグラム陰性細菌由来の輸送系ではあるものの、一つは私たちのグループがこれまで20年間以上取り組んできた多剤排出に関わる三者複合体形成型ABC排出トランスポーターである。この種のABC輸送体は2017年に我々が世界に先駆けて構造を明らかにした。これはABC輸送体としては新たに構造が明らかになったものであり、初のType-VII型ABC輸送体としてカテゴライズされた。また、二つ目のターゲットとしてType-VIIにカテゴライズされつつも多剤排出ではなく外膜蛋白質の輸送系に関わるものも存在する。これが二つ目のターゲットである。2022年度については、2021年度からの繰越予算による2021年度計画の研究内容とあわせて、当該年度計画の内容についても進めることとなった。今年度についてはType-VII型多剤排出ABC輸送体の基質複合体についての結晶化を進めると共に、外膜蛋白質輸送系に属する蛋白質群の構造解析を進めた。外膜蛋白質輸送系において構造情報が未だ無くその様相が不明であるものは、外膜蛋白質がペリプラズム空間を輸送されて行く有様である。外膜蛋白質輸送系では多剤排出輸送体系に於けるペリプラズム・アダプター蛋白質に相当する部分であるペリプラズム・シャペロン蛋白質が外膜蛋白質と複合体を形成し、水溶性化することでペリプラズム空間を拡散して行く。この姿を明らかにするために結晶解析を進めた。外膜蛋白質のN末にはフレキシブルな領域があるが、この部分も含めた全長蛋白質どうしの複合体の結晶解析を複数の晶系で完了させた。これらの構造の差違をさらに調査するために、X線小角散乱を用いた溶液構造解析を進めた。最終年度での取りまとめを計画している。
2: おおむね順調に進展している
構造生物学分野において研究手法は多様化している。クライオ電子顕微鏡解析や計算機による構造予測の手法が発達してきているが、結晶解析は分子結晶からの回折現象をその基とするため、高解像度で構造が得られたときの信頼度の高さについては未だに疑いようがない。一方で結晶化という高いハードルがあるために困難な実験手法であるとされる。本年度我々は外膜蛋白質輸送系における全長外膜蛋白質とペリプラズム・シャペロン蛋白質との複合体というこれまで例のない対象の結晶構造解析に複数種の晶系に基づき成功した。さらに、晶系の違いに起因する結晶構造の違いに着目しX線小角散乱法による溶液構造も解析した点については計画を越えた成果と考えることもできる。
最終年度にあたる今年度は、1 三者複合体ABC輸送体のうち、リポ蛋白質輸送系に関わるペリプラズムコンポーネントとリポ蛋白質との複合体の結晶構造解析を行ってきたが、これまでの研究で我々は既に結晶構造および、溶液構造の取得に成功している最終年度にあたる今年度はこれを論文化し、成果の取り纏めを行う。2 リポ蛋白輸送系の内膜コンポーネントの構造解析については海外のグループによるクライオ電顕構造が発表され、先を越された間がある。これまで我々は同種の三者複合体ABC輸送体の結晶構造解析を高分解能で行っており、その成果の取りまとめに向けた機能研究を進め、論文化へと繋げる。
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The Journal of Biochemistry
巻: 173 ページ: 65-72
10.1093/jb/mvac087