グリコシルホスファチジルイノシトール (GPIと略記) はヒト細胞表面に存在する160種類余のタンパク質に結合し、細胞膜アンカーとして機能する。GPIはタンパク質に結合しないフリーの糖脂質としても存在する。本研究では未だ理解が進んでいないGPI生合成の量の制御機構、GPI中間体の細胞質側から内腔側へのフリップのメカニズム、フリーGPIの実態と細胞内動態の解明を進め、制御機構を含めたGPI生合成の完全理解を目指した。本年度の実績は以下の通りである。 第1の研究目的であるGPI生合成量の制御機構に関し、小胞体膜タンパク質であるARV1がGPI生合成第1ステップを司る酵素の成分であるPIGQと結合することをR4年度に見出したので、R5度はPIGQ上のARV1相互作用部位を特定した。そしてARV1が第1ステップの反応を大きく増強すること、それはPIGQとの結合を介して行われることを証明した。さらに、ARV1を含む酵素複合体と含まない複合体を単離し、インビトロでの酵素反応を比較したところ、ARV1を含む複合体には基質であるホスファチジルイノシトールが結合していて、酵素活性が数倍程度高いことがわかった。以上から、従来様々な脂質の制御に働くことが報告されているARV1が、GPI生合成の第1ステップの酵素であるGPI-Nアセチルグルコサミン転移酵素の活性制御にも働いていることがわかった。ARV1はGPI-Nアセチルグルコサミン転移酵素の成分として働き、おそらくはホスファチジルイノシトールの利用を促進して酵素活性を増強すると考えられた。R4年度に見出したCD55前駆体によるGPI生合成の上昇にARV1が必要であることは、今年度の結果と合わせ、GPI生合成の量の上昇が第1ステップの活性増強を介していることを示している。
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