研究課題/領域番号 |
21H02422
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
舘林 和夫 東京大学, 医科学研究所, 准教授 (50272498)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 高浸透圧 / Hog1 / MAP キナーゼ / リン酸化 / 脱リン酸化 / ストレス応答 / シグナル伝達 / 酵母 |
研究実績の概要 |
本研究では、酵母の高浸透圧応答性Hog1 MAPK経路の高浸透圧による細胞質局在キナーゼのリン酸化増強作用の仕組みを解析した。リン酸化増強の作用点として1)Pbs2-Hog1リン酸化、2) Ssk2-Pbs2リン酸化が存在するが、Pbs2は酵素、基質の両方の役割を持つ。さらに高浸透圧によるリン酸化増強は、特にPbs2の活性化ループ内のSer514(S514)、Thr518(T518)の一方のみがリン酸化されたモノリン酸化Pbs2によるHog1のリン酸化に必要であることから、リン酸化増強作用を理解する上で、同ループのリン酸化制御機構の解明が重要である。そこで未知だったPbs2の活性化ループの脱リン酸化機構を解析した。特異的リン酸化抗体及びPhos-tagバンドシフトアッセイ法を組み合わせてS514、T518のリン酸化を直接検出する系を初めて確立し、Hog1経路を負に制御する2C型ホスファターゼ群の欠失変異がPbs2脱リン酸化に与える影響を調べた。その結果、主としてPtc1がT518の脱リン酸化に働くこと、Ptc1、Ptc2、Ptc3、Ptc4がS514の脱リン酸化に重複して働くことがわかった。また高浸透圧刺激下でPbs2のS514、T518の両者をリン酸化するSsk2は、活性の弱い非刺激時にはT518のみしかリン酸化できないことを示し、高浸透圧増強の起こらない非刺激時において不適切なHog1のリン酸化・活性化が抑制される仕組みを明らかにした。 上記に加えて、リン酸化増強を模倣する可能性のあるPbs2の超活性型変異体を単離・解析した結果、それらが基質としての性質変化を示唆する活性化ループ内のリン酸化が亢進するタイプの変異であることがわかった。さらにSsk2のリン酸化活性に重要な自己リン酸化候補部位を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実績概要で示したように、高浸透圧増強を理解する上で必要なPbs2の活性化ループ内のリン酸化の制御機構の理解は、これまで未知だった責任ホスファターゼの同定、S514とT518の異なる脱リン酸化様式の発見を通じて大いに進展したと思われる。また、Pbs2の超活性型変異体の解析も進んでおり、この変異体を解析ツールとして、高浸透圧によるリン酸化増強機構の解明につながることが期待されるため、研究はおおむね順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
Pbs2の高浸透圧増強への関与については、Pbs2の超活性型変異体の解析が研究の柱になる。今年度解析したPbs2の超活性型変異体はいずれも活性化ループ内のリン酸化が亢進するタイプであり、Ssk2がPbs2をリン酸化するステップで高浸透圧により起きるPbs2の構造変化を模倣する可能性がある。これらについて、リン酸化反応における特に基質としての性質変化、Hog1経路の他因子との相互作用の変化などを、分子生物学、生化学、細胞生物学のアプローチにより解析する。また、変異体の構造生物学的解析を通じて、Pbs2のリン酸化増強反応の仕組みを解明する。 またPbs2のリン酸化増強は、高浸透圧によってリン酸化反応が亢進する可能性に加え、Pbs2の脱リン酸化が抑制される可能性も考えられる。令和4年度の研究でPbs2の活性化ループ内の脱リン酸化には2C型ホスファターゼPtc1-Ptc4が働くことを明らかにした。高浸透圧刺激が、Ptc1-Ptc4を介したPbs2の脱リン酸化に影響を与えるか、脱リン酸化活性や、基質であるPbs2との結合性などを中心に解析する。 一方、Ssk2に関しては、高浸透圧刺激がSsk2の自己リン酸化の増強を介してリン酸化活性の亢進に寄与している可能性が高い。Ssk2のリン酸化活性に重要なリン酸化候補部位を同定したが、作製予定である同部位の特異的なリン酸化抗体やPhos-tagバンドシフト法などを用いてSsk2の自己リン酸化状態の検出法を確立し、自己リン酸化が高浸透圧依存的リン酸化増強の標的であるのかを検証する。またSsk2のN末端側制御領域内に欠失を持つ超活性型変異について、Ssk2の活性化因子Ssk1との結合様式やSsk2の自己活性抑制能への影響を解析することで、Ssk2 活性化の機構解明につなげる。
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