研究課題/領域番号 |
21H02424
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
鈴木 健一 岐阜大学, 糖鎖生命コア研究所, 教授 (50423059)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 糖脂質 / GPIアンカー型タンパク質 / 細胞膜ドメイン / ラフト / 1分子観察 |
研究実績の概要 |
本研究では、高精度1分子・超解像顕微鏡観察技術に基づき、生細胞膜上で糖脂質は糖鎖間相互作用により、GPIアンカー型タンパク質は細胞外タンパク質間相互作用により、機能性集合体を誘起し、ラフト脂質がそれを安定化するという概念を検証する。さらに、このような複合体自体を集める大きな膜領域(階層構造)が存在するかを検証する。もし、階層構造がある場合は、その形成機構を明らかにすることを目的としている。今まで、糖脂質ガングリオシド蛍光プローブがなかったために、生細胞膜上の糖脂質ガングリオシドの動態研究は皆無であった。しかし、我々は8種のガングリオシド蛍光プローブを開発し、上記課題に挑んだ。 昨年度、様々なGPIアンカー型タンパク質の超解像ライブセルイメージングを行った。同種のGPIアンカー型タンパク質ドメイン間の共局在は、タンパク質相互作用がある分子は顕著だったが、タンパク質相互作用のない分子では、稀であった。一方、コレステロール除去後のGPIアンカー型タンパク質やGPIアンカー鎖を非ラフトの貫通型タンパク質に変えたキメラでは、同種分子のドメイン間の共局在が激減していた。 さらに膜内層のPSやPI(4,5)P2といった脂質分子の結合タンパク質の超解像ライブセルイメージングを行った。膜内層脂質がアクチン膜骨格に結合時、内層脂質とGPIアンカー型タンパク質ドメインとの共局在強度が大きく増加した。一方、膜貫通型のキメラタンパク質は、内層脂質がアクチンに結合してもしなくても有意に違いが見られなかった。 これらの結果は、側方方向のタンパク質相互作用がドメイン同士の共局在を誘起し、脂質相互作用が安定化していることを示唆している。さらに、膜ドメインとアクチン結合した内層脂質のドメイン間の共局在が見られたことは、膜表裏の脂肪酸同士のカップリングによっても、ドメイン形成が安定化されていることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一昨年度までに、GPIアンカー型受容体や糖脂質のホモダイマーの一般性を検証できた。また、ラクトシルセラミドの光学異性体間のヘテロダイマー寿命が、D体同士、L体同士のホモダイマー寿命よりもずっと短いことから、ラクトシルセラミドは特異的な糖鎖間相互作用でホモダイマーを形成することが明らかになった。このように糖脂質の糖鎖間相互作用が、ホモダイマーを誘起することを証明した。 さらに昨年度、GPIアンカー型タンパク質のダイマーやオリゴマーを集める膜ドメインの存在が示唆された。すなわち、タンパク質相互作用のあるGPIアンカー型タンパク質の形成する膜ドメイン同士の共局在は顕著だったが、ラフト脂質相互作用が弱まると、共局在が激減していた。一方、タンパク質相互作用のないGPIアンカー型タンパク質の形成するドメイン同士の共局在は弱かった。GPIアンカー型タンパク質のダイマーやオリゴマーは、タンパク質相互作用により形成されることをすでに見出しているので、これらの結果は、GPIアンカー型タンパク質のダイマーやオリゴマーを集める膜ドメインの存在を表している。 また、脂質の脂肪酸同士の膜表裏カップリングの有無を検証できた。すなわち、アクチン膜骨格結合した内層リン脂質ドメインとGPIアンカー型タンパク質のドメインの共局在が確認され、アクチン結合がないと、共局在は減少した。また、その共局在はGPIアンカー鎖依存的であった。 従って、現在までは、おおむね順調に進捗していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように実験系を確立できたので、今後は、より詳細な機構を解明していく。 例えば、Thy1やCD59といったGPIアンカー型タンパク質は、タンパク質相互作用でインテグリンと直接的、あるいは間接的に結合することが知られている。この結合サイトの点変異体を細胞に発現させたときに、wild typeで見られたような共局在が観察されるかどうかを検証する。また、細胞膜の脂肪酸組成を変えたり、アクチン膜骨格を部分破壊したり、摂動をかけたときの共局在を定量する。 ガングリオシドと受容体の相互作用は、GM3以外にも多種類のプローブを用いて検証していく。また、EGFRのどのN型糖鎖がガングリオシドと相互作用するかを同定する。
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