研究課題/領域番号 |
21H02426
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
阿部 一啓 名古屋大学, 細胞生理学研究センター, 准教授 (60596188)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 膜タンパク質 / 能動輸送体 / Cryo-EM / 構造解析 / 生化学 / P-type ATPase / 胃プロトンポンプ / AI |
研究実績の概要 |
当該年度はコロナ禍の影響で遅延していた死海に生息する川エビのナトリウムポンプの構造機能解析を推進した。 死海はNaCl濃度にして6Mにも達する高塩濃度であるために、ほとんどの生物は生息できない。しかしながら、川エビの一種(Artemia sff)は、このような過酷な環境に生息することが確認されている2種類の多細胞生物のうちの1つである。この川エビは、周囲の塩濃度の上昇に応じてナトリウムポンプの特殊なアイソフォーム(alpha2KK)の発現量を増加させる。川エビのトランスクリプトーム解析によって、alpha2KKの配列を決定し、組み替え体として動物細胞で発現した。細胞より精製し、クライオ電子顕微鏡による単粒子解析によって構造を決定した。 Alpha2KKには、そのカチオン結合部位に2つのLysが存在する。得られた構造では、そのうちの1つの正電荷を持つ側鎖がカチオン結合サイトの中央に位置し、カチオンを追い出す役割を担うことが分かった。電気生理学による解析によって、ヒトを始めとした動物がもつ「通常の」ナトリウムポンプが行う、3Na:2Kの輸送ではなく、2Na:1Kの輸送を行うことを見出した。 以上の構造機能解析によって、alpha2KKナトリウムポンプが、死海の高塩濃度溶液に対して①リジンの正電荷を使ってNa+を押し出す②輸送化学量論を変化させることでATPの加水分解から得られる自由エネルギーの範疇で能動輸送を達成する、ことが理解できた・この結果は2023米国アカデミー紀要に掲載された(Artigas et al., 2023, PNAS)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
コロナ禍の影響で遅延していた死海に生息する川エビのナトリウムポンプの構造機能解析であるが、本年度に集中的に実施することでこれまでの遅れを取り戻し、結果を得ることができた。 他のプロジェクトに関しても順調に構造解析が進んでおり、機能解析を推進することで、論文として取りまとめていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
胃プロトンポンプの高分解能構造解析を推進する。現在1.9A分解能の構造が得られているが、撮影条件を最適化し、データを追加することで、さらに高分解能の構造を得る。 脂質フリッパーゼに関して、基質特異性が変化した病原性変異体を取得しており、構造機能解析によって、脂質の種類特異的な認識機構を解明できる見通しである。 新規フリッパーゼの構造解析も順調に進んでおり、単一グリッドから複数のコンフォメーションの構造を取得済みである。今後はKO細胞を作成して細胞内での機能を解析し、MDシミュレーションによって基質輸送メカニズムについて検討する予定である。
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