本研究は、がんの免疫回避に関与するコレステロール硫酸(CS)とその産生酵素SULT2B1bの発現と動態を制御する分子機構を解明し、腫瘍免疫を賦活化する新たな手法を開発することを目指している。今年度の取り組みでは、SULT2B1bの発現制御機構を明らかにするために、ヒトの大腸がん細胞株10種のRNA-seqを実施して遺伝子発現プロファイルを比較解析し、SULT2B1b発現と高い相関を示すシグナル分子を複数同定してin vitroの発現誘導実験を行なった。さらに、TCGAデータベースを利用して、がん種ごとの患者遺伝子発現プロファイルと予後の相関を調べ、SULT2B1b発現と予後不良、及び免疫関連遺伝子の発現低下の間に高い相関を見出した。これにより、複数のがん種において、SULT2B1を介した免疫回避機構が作動している可能性が示唆された。また、CSの放出と取込みを制御する候補分子として、有機アニオントランスポーターに焦点を当て、CS産生がん細胞株とCD4T細胞に発現する候補遺伝子を絞り込んで、機能解析に着手した。最後に、昨年度までに同定したSULT阻害剤C3以外にも、異なる骨格を有する阻害化合物を複数得ることに成功した。
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