本年度はまず、独自設計・製作した多光子顕微鏡を用いて蛍光ビーズあるいは生体試料を用いた撮像実験を行った。本実験では、理論計算や数値シミュレーションでは推定が困難な実際の蛍光信号レベルを測定するとともに、装置構成部品の不完全さによる収差の影響などを評価することを目的とする。実験では神経系に蛍光タンパク質を発現した線虫を用い、麻酔により不動化したものを用いた。取得データは多点同時検出の際のパラメータ設定に用いることとした。さらに、これまでの検討結果に基づき、最適な多点同時検出方式を決定した。具体的な方式としては時分割多重方式を採用し、現在利用可能なレーザー光源および光制御デバイスを用いて、従来の多点検出方式よりも1桁以上高速な、1 MHzを上回る計測頻度が達成されることが見出された。また、本方式に基づき、線虫およびマウスの脳のニューロンを想定して数値シミュレーションを実施し、それぞれの場合の計測頻度を見積もった。いずれの場合も、適切な光変調デバイスを選択することで従来の研究で達成されている最大の計測頻度を上回る見込みを得た。ここで、従来達成されている計測頻度はいずれもイメージングをもとに行われているものであり、同一の計測頻度であっても多点同時検出方式は計測対象の生体に照射するレーザーの光を大幅に抑えることができ、生体へのダメージが抑制される利点が生じる。本研究に見出された多点同時検出方式は、膜電位計測のみならず、生体内で生じる高速なダイナミクスをとらえる手法として様々な分野での応用展開が期待される。
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