研究課題/領域番号 |
21H02438
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 聡 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (30283641)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | SARS-CoV2 / Nタンパク質 / 一分子蛍光分光法 / 蛍光相関分光法 |
研究実績の概要 |
新型コロナウイルスは約3万塩基もの長さを持つRNAをウイルス内にコンパクトにパッキングし、遺伝情報として維持している。ウイルスにおいて、本来不安定なRNAを安定化しコンパクトに収縮させる役割を持つと考えられるのが、Nタンパク質である。今年度も、Nタンパク質と短いRNAが形成する複合体の構造を、一分子蛍光分光法と蛍光相関分光法を用いて調べる研究を継続した。用いた試料は、一本鎖構造を持ち、長さが20塩基、30塩基、40塩基のポリアデニル酸と、ステムループ構造を作る複数のRNA配列である。これらの試料の5'および3'末端を蛍光色素でラベル化し、Nタンパク質を滴定し、試料に引き起こされた構造変化を一分子蛍光分光法により観察した。その結果、これらの試料は、RNAが二次構造を持つかどうかに関わらず、Nタンパク質がRNAに対して高い親和性を持ち、不均一な構造を形成することを見出した。ステムループ構造を作る試料の場合、ステムループがある程度引き伸ばされた構造が形成された。これらの結果は、Nタンパク質がRNAと結合することで非特異的な構造変化を引き起こすことを示している。同じ試料を蛍光色素一つでラベル化し、蛍光相関分光法を用いて解析した結果も、RNAとNの高い親和性を示した。 数百ベースを超える長鎖RNAをin vitro転写により合成する方法を確立し、さらに、合成した長鎖RNAに蛍光色素をラベル化する方法を開発した。この試料を用いて、RNAのコンパクト化を調べることを可能とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまで、RNAとNタンパク質の相互作用を調べてきたが、Nタンパク質を精度良く生成する作業が大変難しく、再現性のある結果を得ることに時間が必要だった。また、Nタンパク質そのものを蛍光色素ラベル化する作業も進めていたが、それも大変難しく、Nタンパク質のラベル化は断念することにした。このように試行錯誤が続いているが、ラベル化していないNタンパク質を精度良く生成することには成功しており、今後の実験の展開につながると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、これまでに得られた成果の報告をいそぐ。データの再現性などを確認しており、現在論文の執筆を進めているところである。 第二に、長鎖RNAをどのようにNが収縮させるかを調べる予定である。これまでの研究で、Nタンパク質は非特異的にRNAに結合し、RNAをコンパクトに収縮させることがわかってきた。これらの観察を基に、コンパクト化するドメインがウイルスのゲノムRNAにコードされており、Nの存在下で特定の構造に折り畳まれるという仮説を考えている。この可能性を検証する実験を行う。そのために、長鎖RNAの両端に色素をラベル化し、Nの存在下において色素感のFRETが観察されるかどうかを検証する。2022年度の研究で、長鎖RNAのin vitro合成とその色素ラベル化を行い、FCSおよびFRET測定の予備実験を行った。複数の長鎖RNAを合成し、配列に依存した効果があるかどうかを検証する予定である。
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