微生物由来のレチナールタンパク質(ロドプシン)は、光を受容して機能を発揮する膜タンパク質であり、最近ではその光応答性を利用して細胞の光制御を可能とするオプトジェネティクスに利用されるなど応用面でも注目されている。ロドプシンの最も代表的な機能は、イオンを能動輸送する機能であり、プロトンポンプのバクテリオロドプシン、クロライドイオンを輸送するハロロドプシン、ナトリウムポンプのKR2などが知られている。これらのイオンポンプ機能を持つロドプシンを比較すると、その基本構造は類似しており、構造の類似性にも関わらず電荷の異なるイオンを同一方向に輸送する仕組みに興味が持たれている。 今までに、様々なイオンポンプロドプシンが発見されており、それらのロドプシンにおいて、部位特異的変異導入及びその活性測定やクライオトラップ法による中間体X線結晶構造解析などが行われてきたが、イオンの選択性やイオン輸送機構の全容は明らかではない。本課題では、光反応の過程をリアルタイム且つ原子レベルで可視化することを目指して、X線自由電子レーザー(XFEL)を用いた時分割実験を行う。高い空間分解能の動的構造情報を得るには、XFELによるシリアルフェムト秒結晶構造解析が用いられており、微結晶を調製する必要がある。今年度は、短時間で大量調製可能な大腸菌無細胞合成系を用いて、2種類のクロライドイオンポンプロドプシンを調製し、高分解能を示す微結晶を得るのに成功した。また、ベルトコンベア型装置を開発し、ポンププローブ時分割実験を実施し、微生物型ロドプシン1種の構造変化を捉えた。現在、クロライドポンプロドプシンについては、放射光とXFELの両方でデータ測定を行っており、時分割実験に向けた検討を続けている。
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