研究課題/領域番号 |
21H02442
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
菅瀬 謙治 京都大学, 工学研究科, 准教授 (00300822)
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研究分担者 |
森本 大智 京都大学, 工学研究科, 助教 (40746616)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 液-液相分離 / アミロイド線維 / αシヌクレイン / 剪断流 / Rheo-NMR |
研究実績の概要 |
パーキンソン病患者の脳内に見つかるタンパク質凝集体(レビー小体)には、αシヌクレインのLys12・Lys21・Lys23のうち1または2箇所がモノユビキチン化されたものが見つかっている。また、Lys96でポリユビキチン修飾されたものの存在も示唆されている。ユビキチン化αシヌクレインを調製するにあたって、酵素により特定のユビキチン化αシヌクレインを調製する手法は確立していないため、本研究ではジスルフィド結合によりユビキチン化を模倣することとした。まず、MBP-SUMOタグ付きαシヌクレインのLys12・Lys21・Lys23・Lys96の各リジン残基を1つずつシステインに置換した発現ベクターの調製を試みた。その結果、Lys21Cysαシヌクレイン以外の発現ベクターは調製できた。ここでは、まずはできるものからユビキチン化αシヌクレイン タンパク質を調製することとし、Lys21Cysαシヌクレインの発現ベクターを調製するのは後回しとした。なお、ユビキチンのGly76をシステインに置換した発現ベクターも必要であるが、これはすでに当研究室で調製済みである。 まずはアミロイド線維化しにくいと言われているLys12のユビキチン化に着目した。[15N]-Lys12Cys-αシヌクレインと非標識Gly76Cys-ユビキチンを従来の手法で大量発現し、化学的手法により両タンパク質をジスルフィド結合で連結することによって、Lys12ユビキチン化[15N]-αシヌクレインを調製することに成功した。興味深いことにNMRによる解析から、Lys12のユビキチン化によってαシヌクレインのC末端領域の構造も変化していることが分かった。また液-液相分離のしやすさをPEG存在下で調べたところ、Lys12ユビキチン化αシヌクレインは野生型のαシヌクレインよりも液-液相分離しにくいことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度大量に調製できたユビキチン化αシヌクレインはLys12ユビキチン化αシヌクレインだけであった。この原因は、野生型αシヌクレインの大量調製法の場合、αシヌクレインのシステイン変異体の発現量が野生型のものよりも非常に少なかったためである。そのため、この発現量の最適化に時間を要したため、試料調製の点で研究計画が若干遅れている。しかし、αシヌクレインのシステイン変異体の大量発現法は昨年度に確立したため、すぐにこの遅れを取り戻せると考えられる。 一方、N末端領域に近いLys12のユビキチン化によってαシヌクレインのC末端領域のNMRシグナルまで変化するという予想外の結果が得られた。このことはユビキチン化によってαシヌクレインの広い領域の構造が変化することを示唆する。このユビキチン化によるαシヌクレインの構造変化は新しい展開であるため、この点では計画を超えた結果が得られたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度実施した内容を他のユビキチン化αシヌクレインに対しても実施する。また昨年度の結果からユビキチン化によってαシヌクレインの広い領域の構造が変化することが示唆されたため、ユビキチン化の違いによるαシヌクレインの構造変化の違いの解析も、新たに計画の中に組み込んで研究を進める。さらに液-液相分離のしやすさを調べる実験については、複数のユビキチン化αシヌクレインを同時に同じ条件で評価したほうが良いため、この実験は計画している全てのユビキチン化αシヌクレインを大量に調製した後に実施する。
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