研究課題/領域番号 |
21H02442
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
菅瀬 謙治 京都大学, 農学研究科, 教授 (00300822)
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研究分担者 |
森本 大智 京都大学, 工学研究科, 助教 (40746616)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 液-液相分離 / アミロイド線維化 / αシヌクレイン / 剪断流 / Rheo-NMR |
研究実績の概要 |
αシヌクレインのアミロイド線維化は、神経変性疾患の1つであるパーキンソン病の発症と強い相関がある。このタンパク質は神経細胞内でユビキチン化されるが、最近の研究から、ユビキチン化αシヌクレインが液-液相分離し、それが軸索輸送と呼ばれる神経細胞の流れによってアミロイド線維化することが示唆された。しかし、この一連の過程の詳細、とくに構造変化や凝集状態の変化などはよく分かっていない。そこで本研究では、神経細胞内で実際に起こっているαシヌクレインのユビキチン化と軸索輸送(流れ)を試験管内に再現し、それを原子・分子レベルで解析することによって、αシヌクレインの液-液相分離とアミロイド線維化の機構を解明する。加えて、細胞実験により、どのような凝集状態が細胞毒性を示すのかを明らかにする。なお、流れの存在下における原子レベルの解析には、申請者らが独自に開発したRheo-NMRを用いる。 本年度はαシヌクレインの発現・精製のプロトコルを見直して、収量を上げることを試みた。タグなしのαシヌクレインを大腸菌発現系で発現し、細胞破砕液の上清を酸性にすることによって不要な夾雑物を沈殿させる戦略をとった。実際にはこの後にイオン交換クロマトグラフィーも行ったが、大幅に精製αシヌクレインの収量を上げることに成功した。得られたαシヌクレインに種々の濃度でPEGを添加し、液-液相分離する条件を検討した。先行研究ではリン酸バッファーやトリスバッファーで液-液相分離する条件が調べられていたが、申請者らは過去にαシヌクレインのRheo-NMR測定でMOPSを用いたため、この実験ではMOPSで液-液相分離することを確認した。また、液-液相分離する条件で各種3次元NMR測定を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一昨年度にはジスルフィド結合によってユビキチン化αシヌクレインを調製することを試みていた。実際に調製できたものもあったが、NMR測定や液-液相分離の解析をするには十分な量ではなかった。しかも、αシヌクレインのシステイン変異体の場合、野生型よりもタンパク質発現・精製の収量が下がるため、昨年度は改めてαシヌクレインの発現・精製のプロトコルを見直して、収量を上げることを試みた。元々のプロトコルでは、GST-SUMOタグ付きのαシヌクレインを大腸菌発現系で発現し、グルタチオンカラムを用いたGSTに対するアフィニティー精製を行い、SUMOのカルボキシ末端とαシヌクレインのアミノ末端の間をSENP酵素によって切断後に、イオン交換クロマトグラフィーを行っていた。実際にはイオン交換クロマトグラフィーのαシヌクレインのフラクションに切断されたGST-SUMOが少量混じって溶出されてきたため、最後にグルタチオンカラムで余計なGST-SUMOを除去していた。カラム操作が3回あるためその都度、αシヌクレインのロスがあった。そこで、昨年度はタグなしのαシヌクレインを大腸菌発現系で発現し、細胞破砕液の上清を酸性にすることによって不要な夾雑物を沈殿させる戦略をとった。実際にはこの後にイオン交換クロマトグラフィーも行ったが、大幅に精製αシヌクレインの収量を上げることに成功した。得られたαシヌクレインに種々の濃度でPEGを添加し、液-液相分離する条件を検討した。先行研究ではリン酸バッファーやトリスバッファーで液-液相分離する条件が調べられていたが、申請者らは過去にαシヌクレインのRheo-NMR測定でMOPSを用いたため、この実験ではMOPSで液-液相分離することを確認した。また、液-液相分離する条件で各種3次元NMR測定を行った。現在は液-液相分離した状態のαシヌクレインのNMRシグナルの帰属を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
まずは液-液相分離した状態のαシヌクレインのNMRシグナルの帰属を完了する。単なるバッファーの帰属はついており、そのNMRスペクトルは今回の液-液相分離した状態のNMRスペクトルと似ているため、バッファー中のαシヌクレインの帰属を参考にすることによって、ここでの帰属は比較的容易に完了すると考えられる。続いて、液-液相分離した状態のαシヌクレインを静置したままアミロイド線維化していく過程を、二次元1H-15N相関(HSQC)スペクトル連続測定することによって各アミノ酸残基のNMRシグナル強度の経時変化として速度論的に解析する。同様な実験をRheo-NMRによる流れが存在している条件で実施し、液-液相分離した状態からアミロイド線維化する過程において流れがどのような影響を及ぼすかを明らかにする。報告者らは、すでにバッファー中のαシヌクレインがRheo-NMRの流れによってアミロイド線維化していく過程を速度論的に解析しているため、今回の液-液相分離した状態からのアミロイド線維化の結果と合わせて論文としてまとめる。 次に、Lys12・Lys21・Lys23・Lys96のそれぞれをシステインに置換したαシヌクレインを調製し、これとユビキチンのカルボキシ末端のグリシンをシステインに置換したものをジスルフィド結合によってユビキチン化αシヌクレインを調製する。各システイン置換αシヌクレインはGST-SUMOタグ付きの発現ベクターからタグのない発現ベクターを作成し、野生型の場合と同じプロトコルでシステイン置換体を大量調製する。ジスルフィド結合によって調製する各ユビキチン化αシヌクレインに対して、野生型の場合と同様な液-液相分離する条件の調査とNMR実験を行う。
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