研究課題/領域番号 |
21H02443
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
今田 勝巳 大阪大学, 理学研究科, 教授 (40346143)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 細菌べん毛 / クライオ電子顕微鏡 / X線結晶構造 / シンメトリーミスマッチ / 超分子複合体 |
研究実績の概要 |
本研究は、細菌べん毛軸構造形成中間体と短繊維べん毛の構造をクライオ電子顕微鏡によりロッド-フック結合部、フック-フィラメント結合部の構造と、各部の成長端の構造を解明し、物性・機能・構造・シンメトリーが異なる領域を結合して巨大な軸構造が一体で作動するしくみとシンメトリーミスマッチを克服・利用して複雑な構造を形成するしくみの解明を目指している。今年度の実績は以下の通りである。 1)フラジェリンの発現を制御できる変異体を用から精製した短繊維べん毛試料のクライオ電子顕微鏡像を撮影し、FliDキャップ-R型フィラメント結合部の単粒子解析を行った。8オングストローム分解能の密度図にFliDの結晶構造とR型フィラメント構造を当てはめ、精密化を行い、構造モデルを構築した。現在、論文作成中である。 2)フィラメント欠損変異体からジャンクション中間体べん毛を単離精製し、クライオ電子顕微鏡像の単粒子解析を行った。その結果、FliDキャップ-ジャンクション結合部は約4オングストローム分解能の密度図を得た。現在、構造モデルを構築中である。 3)FlgK蛋白質欠損変異体を用い、FlgDキャップが結合した状態で成長が停止したべん毛試料の大量精製法を確立し、クライオ電子顕微鏡による撮影を行った。現在、単粒子解析を行っている。 4)クライオ電子顕微鏡撮影では外膜断片の混入が問題になるため、各試料の精製おいて強アルカリ処理を行っている。しかし、この処理は濃度や処理時間の微妙な違いにより、試料に大きなダメージを与えたり、大量の外膜混入が起きたりする。そこで、タグによる試料精製を可能にするため、基部体蛋白質にタグを導入した変異蛋白質を発現するプラスミドを4種類作成し、発現した蛋白質の混入による影響と予備的な精製を行った。その結果、FliMにHisタグを導入した試料が有望であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
FliDキャップとフィラメント結合部の構造は、電子顕微鏡像の分解能が8オングストロームではあるものの、結晶構造とフィラメント構造が既知であり、構造中のヘリックスの密度が明瞭に現れていることから、構造モデルを構築することができた。その結果、回転対称を持つFliDキャップがべん毛先端ではワッシャー状の構造に変化し、フィラメントに安定に結合しながらフラジェリンを組み込むメカニズムが解明された。FliDキャップ-ジャンクション結合部は、構造モデル作成に十分な密度図が得られた。FlgDキャップ-フック結合部は精製法・撮影法がほぼ確立できた。また、各領域を高分解能で解析するには、多くの電子顕微鏡像の撮影が必要であり、試料精製法の改良が必要である。そのためにはアルカリ処理をなくす必要があるが、タグを導入した有望な試料が得られた。これが確立できれば、各試料の精製と撮影が著しく簡便化できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の項目を進める。 1)短繊維試料の作成条件を改良してクライオ電子顕微鏡撮影を継続し、FliDキャップ-フィラメント結合部の高分解能化とフック-ジャンクション-フィラメント結合部の解析を実施する。 2)FliDキャップ-ジャンクション結合部の構造モデルを構築し、ジャンクション中間体の実態を解明する。 3)FlgDキャップが結合した状態で成長が停止したべん毛試料のクライオ電子顕微鏡撮影を継続し、FlgDキャップ-フック結合部の高分解能構造を解明する。そして、FliDキャップ-フィラメント結合部の構造と比較し、成長端の共通点と相違点を解明する。 4)タグを用いて強アルカリ処理を用いない精製法を確立し、各成長中間体の精製に用いる。
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